カテゴリ: 元素・表面分析

10 件の記事

CHN元素分析とハロゲン・硫黄分析 ― 燃やして出てくるのは、元素の量ではなく「手順が決めた量」【2026年版】

CHN元素分析とハロゲン・硫黄分析 ― 燃やして出てくるのは、元素の量ではなく「手順が決めた量」【2026年版】

試料を燃やして炭素・水素・窒素を測る。原理は 100 年前から変わらない。だから「元素の絶対量が出る」と 思われがちだが、実際に出てくるのはそうではない。合成化学の論文で純度の証拠として使われる ±0.4% という 判定線は、文献をたどっても誰がいつ決めたのか分からない。同じ高純度試薬を 18 のラボへ送った 2022 年の 国際共同試験では、436 のデータ点のうち 10.78 % がその線を外れ、炭素だけなら 16.44 % が外れた。試料は どれも表示どおり純粋だったのに、である。さらに 2024 年の試算では、完璧に測ったとしてもトリプトファンの 分子式を 26 % の確率で取り違える。一方ハロゲン・硫黄側では、米国 EPA が PFAS スクリーニング法の冒頭に 「AOF は手法そのものが定義する量(method-defined parameter)である」と明記した。炭素数 4 未満は活性炭に 残らず、炭素数 8 超は容器壁に貼りつく。どちらの側でも、燃焼分析が返すのは「元素の量」ではなく 「その手順で捕まえられた分」である。CHN の判定線、燃え残ったフッ素が窒素に化ける仕組み、酸素フラスコ 燃焼法から燃焼イオンクロマトグラフィーへの流れ、そしてケルダールとデュマで窒素の値がずれる理由までを、 一次資料の数値で追う。

SEM-EDS徹底解説 ― 像は nm、分析は μm。同じ場所を見ていない【2026年版】

SEM-EDS徹底解説 ― 像は nm、分析は μm。同じ場所を見ていない【2026年版】

SEM は数 nm の像を出す。その同じ電子線で元素分析をすると、返ってくる情報は μm の領域からのものになる。 これはメーカー自身が「10 kV 超では相互作用体積はマイクロメートルのオーダー」と技術資料に明記している 事実である。さらに検出器のカタログも、2022 年に改訂された ISO 15632 以降は Mn Kα だけでは足りず C Kα と F Kα の記載を求められるようになった ―― 同じ検出器の対で Mn K の差が 5 % でも、C K では 35 % 開くからだ。 そして定量値。NIST が希土類鉱物を実測すると、1 mass% の Dy は誤差 2 % で決まるのに、0.251 mass% の Tb は 69 % 高く出る。極めつけは検出限界で、検出器自身の材料である C・Al・Si は、装置が出す蛍光のせいで 検出限界が 1 桁以上悪化する。本記事は「SEM-EDS の数字はどこまで信用できるか」を一次資料の数値だけで追う。

表面分析法の選び方 ― 深さの順位と、横方向の順位は一致しない【2026年版】

表面分析法の選び方 ― 深さの順位と、横方向の順位は一致しない【2026年版】

XPS・AES・ToF-SIMS・SEM-EDS を「表面分析」と一括りにすると、選択を間違える。浅い順に並べると ToF-SIMS(1 nm 以下)→ AES(5〜75 Å)→ XPS(3〜10 nm)→ SEM-EDS(1〜5 µm)だが、 横方向の細かい順に並べると AES(8 nm)→ ToF-SIMS(50 nm)→ EDS(1 µm)→ XPS(10 µm)になる。 順位が入れ替わる ―― 表面分析の代表格である XPS が、横方向では最も広く平均している。しかも ToF-SIMS の「50 nm」は高空間分解能モードの値で、そのとき質量分解能を捨てている。カタログの 最高値は同時には出ない。そして性能表では AES が勝つのに、実務で XPS が選ばれる ―― 決めているのは スペックではなく、試料が帯電するか、電子線で壊れるかである。本記事はメーカー公式値と ISO 規格だけで、 4手法の選択基準を組み立てる。

試料分解法の選び方 ― 公定法は「これは全分解ではない」と冒頭に書いている【2026年版】

試料分解法の選び方 ― 公定法は「これは全分解ではない」と冒頭に書いている【2026年版】

AAS も ICP-OES も ICP-MS も、測る前に試料を溶かさなければならない。その「溶かす」を、どこまでやるか。 EPA Method 3050B は適用範囲の第 2 項でこう宣言している ――「本法は、ほとんどの試料にとって全分解手法ではない」。 ケイ酸塩に結合した元素が溶けないのは失敗ではなく、設計である。実際、同じ堆積物標準物質で Cd・Ni・Pb は 96〜105 % 回収されるのに、Cr だけ 57〜63 % しか出てこない。日本薬局方〈2.66〉も「澄明な溶液が得られない場合は 回収率で保証せよ」とし、その判定幅を 70〜150 % に置いている。本記事は、分解法の選択が「正しい答え」の 定義そのものを変えることを、公定法の原文だけで追う。

XPS(X線光電子分光)徹底解説 ― 校正されているのは装置の目盛であって、試料のゼロ点ではない【2026年版】

XPS(X線光電子分光)徹底解説 ― 校正されているのは装置の目盛であって、試料のゼロ点ではない【2026年版】

XPS は 0.1 eV の化学シフトから化学状態を読む手法である。その目盛は ISO 15472 が Au・Ag・Cu の 3 点で 校正し、値は 83.96 / 368.21 / 932.62 eV と小数点以下 2 桁まで決まっている。ところが試料の側のゼロ点は そうではない。誰もが使う「C 1s = 284.8 eV」は、360 試料の実測で 2.89 eV も動いた ―― 多くの化学シフトより 大きい。しかもこの問題は決着していない。本記事は、エネルギー軸・情報深さ・定量確度という 3 つの軸で 「XPS の数字はどこまで信用できるか」を一次資料の数値だけで追う。3λ が 95 % なのか 99.7 % なのかも、 自分で計算して決着をつける。

XRD(粉末X線回折)と結晶多形 ― 「何 wt% まで測れるか」は、相ごとに違う【2026年版】

XRD(粉末X線回折)と結晶多形 ― 「何 wt% まで測れるか」は、相ごとに違う【2026年版】

日本薬局方に蛍光X線の一般試験法は無いが、粉末X線回折には〈2.58〉が5ページある。同じX線でこの差が出るのは、 XRD が「元素」ではなく「並び方」を測るからだ。JP19〈2.58〉を通読すると、判定値らしい判定値はひとつしかない ―― 「同一結晶形なら 2θ は 0.2° 以内で一致する」。ところがこの幅は、水和物・溶媒和物には適用されない。そして 実際のテオフィリンでは、12.5° と 12.7° という 0.2° 離れた2本が、別々の相だった。決着をつけたのは角度ではなく 「いつ出たか」である。本記事は、局方の 0.2°・装置の 0.03°・NIST 標準物質・リートベルト自動定量の偽陽性 30%・ 検出限界が 10% から 100 ppm まで3桁に散らばる理由を、すべて一次資料の数値で追う。

XRF(蛍光X線)徹底解説と選び方 ― 元素ごとに、見ている深さが違う【2026年版】

XRF(蛍光X線)徹底解説と選び方 ― 元素ごとに、見ている深さが違う【2026年版】

XRF の最大の売りは「前処理をしなくてよい」ことである。エアフィルターなら、目視点検以外に何もせずに 40 元素が測れる。だがその速さには代償がある ―― XRF は表面分析でもバルク分析でもなく、 「元素ごとに違う深さを見ているバルク分析」である。純元素で見ると Ti の K 線は 20 µm、Sn の K 線は 100 µm。 同じモリブデンでも K 線なら 60 µm、L 線なら 1.5 µm と 40 倍違う。そして L 線に切り替えると検出下限は 十数倍良くなる。感度と深さは同じつまみの両端にある。本記事は情報深さを軸に、励起条件・EDXRF と WDXRF の違い・ 試料調製・TXRF までを一次資料の数値で追い、最後に「なぜ日本薬局方に蛍光X線の一般試験法が無いのか」に戻る。

原子吸光(AAS)の実務 ― 薬局方が判定値をひとつも置かなかった試験法を、どう管理するか【2026年版】

原子吸光(AAS)の実務 ― 薬局方が判定値をひとつも置かなかった試験法を、どう管理するか【2026年版】

日本薬局方〈2.23〉原子吸光光度法には、装置性能の判定値がひとつもない。波長のずれも、吸光度の再現性も、 検出下限の下限値も規定されていない。では、この装置が正常に動いていることを何で示すのか。 答えは薬局方の外にある ―― 「特性濃度」、すなわち 1% 吸収(吸光度 0.0044)を与える濃度である。 メーカーは元素ごとにこの値を公表しており、実測値と比べれば装置が仕様どおりかが分かる。 本記事はこの自己診断を軸に、フレームの化学干渉、標準添加法が「最後の手段」である理由、 黒鉛炉の灰化温度のジレンマ、そしてバックグラウンド補正4方式それぞれの代償を、一次資料の数値で追う。

ICP-OES徹底解説 ― プラズマに届いているのは、吸い上げた試料の約2%しかない【2026年版】

ICP-OES徹底解説 ― プラズマに届いているのは、吸い上げた試料の約2%しかない【2026年版】

ICP-OES のカタログは分光器の分解能と検出下限で語られる。だが実際にデータの質を決めているのは、 その手前にあるネブライザとスプレーチャンバー、そしてプラズマがどれだけ頑健かである。 同心型ネブライザの霧化効率は約2%。残りは排液になる。しかもネブライザを詰まりにくい型に替えると、 液滴が大きくなってマトリックス効果が増え、プラズマの頑健さそのものが落ちる。 本記事は Mermet の Mg II / Mg I 比というロバストネス指標を軸に、試料導入系・観測方向・分光器・干渉補正を順に掘る。 そして「干渉は補正すればよい」という思い込みを、カドミウムの検出下限が補正によって約100倍悪化する という具体的な数字で崩す。

元素分析法の全体像 ― AAS・ICP-OES・ICP-MS・XRF は、規制値が決める【2026年版】

元素分析法の全体像 ― AAS・ICP-OES・ICP-MS・XRF は、規制値が決める【2026年版】

元素分析には原子吸光(AAS)、ICP発光分光(ICP-OES)、ICP質量分析(ICP-MS)、蛍光X線(XRF)という 4つの主要手法がある。どれを選ぶかは「感度が高いほど良い」という話ではなく、 管理すべき規制値を試料の希釈率で割り戻した濃度を、その装置が定量できるかどうかで決まる。 本記事は第十九改正日本薬局方の一般試験法〈2.63〉〈2.23〉〈2.66〉と ICH Q3D(R2)、USP〈232〉〈233〉を原典で確認し、 さらにメーカー公式の元素別検出下限表を使って、経口製剤の鉛管理を例に必要な検出下限を逆算する。 結果として、ICP-OES はカタログ上の理想条件でも定量限界の要件を満たさない場面があることが数字で出る。 薬局方が装置性能の判定値を ICP にだけ置いている理由も、この計算から見えてくる。