XPS(X線光電子分光)徹底解説 ― 校正されているのは装置の目盛であって、試料のゼロ点ではない【2026年版】
元素・表面分析

XPS(X線光電子分光)徹底解説 ― 校正されているのは装置の目盛であって、試料のゼロ点ではない【2026年版】

XPS は 0.1 eV の化学シフトから化学状態を読む手法である。その目盛は ISO 15472 が Au・Ag・Cu の 3 点で 校正し、値は 83.96 / 368.21 / 932.62 eV と小数点以下 2 桁まで決まっている。ところが試料の側のゼロ点は そうではない。誰もが使う「C 1s = 284.8 eV」は、360 試料の実測で 2.89 eV も動いた ―― 多くの化学シフトより 大きい。しかもこの問題は決着していない。本記事は、エネルギー軸・情報深さ・定量確度という 3 つの軸で 「XPS の数字はどこまで信用できるか」を一次資料の数値だけで追う。3λ が 95 % なのか 99.7 % なのかも、 自分で計算して決着をつける。

XRF の記事では「元素ごとに、見ている深さが違う」と書いた。XRD の記事では「何 wt% まで測れるかは、相ごとに違う」と書いた。

X線を使う3つ目の手法、XPS(X線光電子分光)にも、同じ型の問題がある。ただし今回ずれるのは深さでも定量限界でもない。エネルギー軸そのものである。

XPS の売りは、元素が「ある」ことだけでなく「どんな結合状態にあるか」まで分かることだ。金属の Ti と酸化物の Ti は、同じ Ti 2p でも数 eV 離れたところにピークが出る。有機物の C-C と C-O と C=O は、C 1s の中で 1〜2 eV ずつずれる。この「化学シフト」を読むのが XPS の本体であり、実務では 0.1 eV 単位の議論をする。

では、その 0.1 eV が乗っている物差しは、どれくらい確かなのか。

答えは二段になる。装置の目盛は、国際規格が小数点以下 2 桁まで決めている。ところが試料の側のゼロ点は、実測で 2.89 eV 動く。

本記事は、この落差を軸に、情報深さと定量確度まで含めて「XPS の数字はどこまで信用できるか」を一次資料だけで追う。

この記事の読み方

  • 入門者:1〜2 節で XPS が何を測っているかを押さえ、5 節と 9 節を読めば「なぜ XPS の数字は扱いが難しいのか」が掴める。
  • 現場の分析者:3〜8 節(エネルギー軸と帯電補正の論争)が本題。11〜12 節は、定量値を報告書に書く前に読んでほしい。
  • 数値はすべて出典とセットで扱った。裏が取れなかったものは末尾の「未確認・限界」に明記した。

1. 日本薬局方には、XPS の一般試験法が無い

第十九改正日本薬局方の一般試験法を全文検索すると XPS・ESCA・表面分析はいずれも 0 件、光電子は 4 ページあるがすべて光電子増倍管と光電子セルである。蛍光X線も 0 件、X線回折は 5 ページある
図解:X線を使う 3 手法のうち、薬局方に一般試験法があるのは回折だけ

まず位置づけから。第十九改正日本薬局方(JP19)の一般試験法を全文検索すると、次のようになる。

検索語 ヒット
「XPS」 0 件
「ESCA」 0 件
「表面分析」 0 件
「光電子」 4 ページ ―― ただしすべて「光電子増倍管」「光電子セル」(検出器の話であって、X線光電子分光ではない)

参考までに、XRF の記事で確認したとおり「蛍光X線」も 0 件、一方で「X線回折」は〈2.58〉として 5 ページある。

つまり X線を使う 3 手法のうち、日本薬局方が一般試験法を持っているのは回折だけである。XPS は医薬品の公定試験法の外側にいる。

これは XPS が劣っているという意味ではない。XPS の主戦場が、医薬品というより材料 ―― 半導体、電池、触媒、めっき、接着、コーティング ―― にあるからである。そして本記事で見るとおり、XPS には「公定法にしにくい」理由が実際にある。

2. XPS が測っているのは、引き算の結果である

結合エネルギー BE は hν − KE − φ で求まる。装置が直接測っているのは運動エネルギー KE であり、BE は引き算の結果である
図解:結合エネルギーは、直接測った量ではない

原理は一行で書ける。試料にX線を当てると光電効果で電子が飛び出す。その運動エネルギー(KE)を測り、次の式で結合エネルギー(BE)に変換する。

BE = hν − KE − φ

hν は入射X線の光子エネルギー、φ は仕事関数である。Kratos の技術資料によれば、実験室装置の標準的なX線源は Al Kα(1486.6 eV)Mg Kα(1254.6 eV)

ここで押さえておきたいのは、BE は直接測った量ではないということだ。測ったのは KE で、BE は引き算の結果である。だから hν が正確に分かっていることと、φ を含む装置側のオフセットが正確に分かっていることの両方が、BE の確からしさを決める。

そして試料が絶縁体なら、光電子が抜けた分だけ試料が正に帯電し、後から出る電子はその電位に引き止められて KE が下がる ―― つまり BE が見かけ上大きくなる。これを補正しないと、化学状態の帰属がまるごとずれる。

装置側のオフセット試料側の帯電。この 2 つが、以降の話の登場人物である。

3. ISO 15472 が校正するのは、装置の目盛である

ISO 15472 は Au 4f7/2 を 83.96 eV、Ag 3d5/2 を 368.21 eV、Cu 2p3/2 を 932.62 eV と定める。適用範囲は結合エネルギー 0〜1040 eV で、スパッタ洗浄用イオン銃を備えた装置にのみ適用される
図解:小数点以下 2 桁まで、国際的に合意された目盛がある

装置側には国際規格がある。ISO 15472:2010「表面化学分析 — X線光電子分光装置 — エネルギー軸の校正」である。公開されているプレビュー部分から、適用範囲を引く。

この国際規格は、非単色の Al もしくは Mg X線、または単色化 Al X線を用いて、一般的な分析目的のためにX線光電子分光装置の結合エネルギー軸を校正する方法を規定する。スパッタ洗浄用のイオン銃を備えた装置にのみ適用できる。(中略)結合エネルギー範囲 0 eV 〜 1040 eV に対して有効である。

校正に使う値は、査読論文(U. Scheithauer, J. Electron Spectrosc. Relat. Phenom. 184 (2012) 542-546)にこう記されている。

単色化 Al Kα 励起のX線光電子分光装置に対し、ISO 15472 は Au 4f7/2、Ag 3d5/2、Cu 2p3/2 ピークの基準結合エネルギーをそれぞれ 83.96 eV、368.21 eV、932.62 eV と定めている。試料はイオンスパッタで清浄化しなければならない。

使う標準物質は NPL(英国国立物理学研究所)の認証 Cu・Ag・Au 箔(SCAA90, 419)。ピーク位置の求め方まで規格が決めており、ピークの最上部への放物線フィットによる。

なぜ Au と Cu なのかも ISO の本文に書いてある。

これらのピークは、実用的な分析で用いられる結合エネルギーの高い側と低い側の限界に近いために選ばれている。

単色化 Al Kα 装置で直線性を確かめるときは、その中間として銀(Ag 3d5/2)を追加で使う。低・中・高の 3 点で軸を張るというシンプルな設計である。

ここまでは、きれいな話だ。小数点以下 2 桁まで、国際的に合意された値がある。

4. その ISO 規格は、合否の線を引いていない

許容限界 d は規格が定義せず利用者が選ぶ。0.1 eV より大きく、かつ繰り返し性標準偏差の約 4 倍より大きく選ぶ。実例では通過エネルギー 11.75 eV と 46.95 eV で ±0.3 eV、93.9 eV で ±0.4 eV を選んで 8 年運用した
図解:規格は目盛を決めるが、不合格の線は引かない

ところが、同じ ISO 15472 のプレビュー部分に、次の一文がある。

ISO/IEC 17025 の範囲内で分析を提供するために校正されたXPS装置、およびその他の目的の装置は、推定校正不確かさの記述を必要とする場合がある。これらの装置は、ある定められた許容限界 ±d の範囲内で結合エネルギー測定について校正された状態にある。d の値は本国際規格では定義しない。それは用途とXPS装置の設計に依存するからである。d の値は、本国際規格の利用者が選択する ―― 規格の使用経験、装置の校正安定性(後略)に基づいて。

規格は、軸の目盛は決めるが、どれだけずれたら不合格かは決めない。決めるのは利用者である。

与えられているのは条件だけだ。

d は 0.1 eV より大きく、かつ繰り返し性標準偏差 sR の約 4 倍より大きく選ぶ。校正された状態にあるというには、基準結合エネルギー値からの乖離に 95 % 信頼水準の拡張校正不確かさを加え、さらに時間経過による装置ドリフトを加えたものが、選んだ許容限界を超えてはならない。

では、実際の利用者はどう選んだのか。前出の Scheithauer の論文が、その実例になっている。PHI Quantum 2000(装置番号 78、2001 年納入)を ISO 15472 に従って校正し、8 年間の長期安定性を追跡した記録である。

最初の 1 年の経験から、通過エネルギー 11.75 eV と 46.95 eV では結合エネルギーの精度すなわち許容限界を ±0.3 eV、93.9 eV では ±0.4 eV として装置を運用することに決めた。ISO 15472 の規定に加えて、その後の校正測定では Ag 3d5/2 信号も測ることにした。

結果は「8 年間にわたって満足なエネルギー軸校正で運用でき、その間ずっと、特定のピーク間のエネルギー差を、選んだ精度で測定できた」。

この構図には見覚えがある。XRD の記事では、NIST が SRM 1976c の証明書で「不確かさは試験装置の適格性判断にいかなる役割も果たさない。受入基準を決定するのは、装置ベンダーと協議したうえでの末端ユーザーの責任である」と書いていた。原子吸光の記事では、日本薬局方〈2.23〉に判定値がひとつも無いことを確認した。

3 つの手法、3 つの権威。どれも真の値は与えるが、合否の線は分析者に委ねている。 これは怠慢ではなく、線の位置が用途で変わるからである。だが結果として、線を引く仕事は必ず分析者のところに残る。

5. 試料のゼロ点 ―「C 1s = 284.8 eV」はどこまで信用できるか

ISO 15472 が校正するのは装置の目盛で、Au・Ag・Cu による絶対的な校正である。一方、帯電補正が扱うのは試料のゼロ点で、汚染炭素の C 1s を 284.8 eV と置く慣例に依存している
図解:ISO が保証するのは装置の目盛だけである

ここからが本題である。

ISO 15472 が校正するのは装置の目盛であって、試料のゼロ点ではない。絶縁体を測れば試料は帯電し、スペクトル全体が高結合エネルギー側へ平行移動する。この分をどう戻すか ―― それが帯電補正(charge referencing)である。

実務でほぼ例外なく使われている方法がある。試料表面には大気曝露で必ず薄い炭化水素汚染層(adventitious carbon, AdC)が付いているので、その C 1s の C-C/C-H 成分を 284.8 eV と置いてスペクトル全体をずらす。

この方法が広く使われているのは、AdC が「どんな試料にもある」「化学的に単純」「装置を選ばない」という三拍子が揃っているからである。論文のメソッド欄に「C 1s at 284.8 eV を基準とした」と書いてある例は、数え切れない。

問題は、284.8 eV という数字が、どこまで一定なのかである。

6. 360 試料で、2.89 eV 動いた

導電性試料 360 試料の実測で、C 1s は仕事関数 2.52 eV の Mg で 286.90 eV、5.35 eV の MoN で 284.08 eV となった。変動幅は 2.89 eV で ISO ガイドライン範囲の 7 倍。結合エネルギーと仕事関数の和は 289.58 ± 0.12 eV で一定である
図解:仕事関数が大きい試料ほど C 1s は低い ― 汚染炭素は真空準位に整列している

リンショーピング大学の Grzegorz Greczynski が、この問いに正面から答えるデータを出している(arXiv:2405.10919)。

測定はすべて同じ分光器(Kratos Axis Ultra DLD、単色 Al Kα、hν = 1486.70 eV)で行われ、電荷中和銃は一切使用していない。試料の仕事関数 φSA は He I 紫外光電子分光(hν = 21.22 eV)の二次電子カットオフから、精度 ±0.05 eV で求めている。スパッタ洗浄した金の φ は 5.13 eV で、教科書値 5.0〜5.4 eV とよく合う。

対象は 360 試料。金属・窒化物・炭化物・ホウ化物・酸化物・炭窒化物・酸窒化物。成膜温度は室温から 900 ℃、大気に触れた温度は室温から 330 ℃、膜厚は 2〜2830 nm、大気曝露期間は数週間から数年に及ぶ。

結果はこうである。

C 1s ピーク位置の変動は 2.89 eV であり、これは ISO ガイドラインが規定する範囲の 7 倍で、多くの化学シフトよりも大きい

具体的な両端を引く。

試料 C 1s の結合エネルギー(フェルミ準位基準) 試料の仕事関数 φSA
Mg 286.90 eV 2.52 eV
Mg-Al 合金 286.83 eV 2.69 eV
Y 286.81 eV 2.8 eV
(「標準」とされる値) (284.8 eV)
WN 284.22 eV 5.23 eV
VN 284.15 eV 5.16 eV
MoN 284.08 eV 5.35 eV

同じ「汚染炭素の C-C/C-H」が、下地によって 284.08 eV にも 286.90 eV にも出る。

そして重要なのは、動き方に法則があることだ。

C 1s の結合エネルギーと試料仕事関数の非常に密接な相関は明白である。実際、その和 EBF + φSA は 289.58 ± 0.12 eV に等しい。

つまり AdC はフェルミ準位ではなく、試料の真空準位に整列している。真空準位を基準にすれば、C 1s の位置はほぼ一定なのである。基準が壊れているのではなく、基準が固定されている先が違う

著者は差動帯電(differential charging)による説明も潰している。

  • 帯電が原因なら C 1s は高い結合エネルギー側にずれるはずだが、MoN・VN・WN では「期待される」284.6〜285.0 eV より低い位置に出る。
  • Al の自然酸化膜の厚さは 0.7〜4.7 nm、Al 2p 電子の Al 中での IMFP は 2.8 nm。「そのように薄い酸化膜が、C 1s を 284.8 eV から動かすのに必要な +1.6 V の正電位を発達させられるとは信じがたい」。

結論はこうなる。

真空準位整列の直接的な帰結は、試料仕事関数を同時に測定することなしには、AdC の C 1s ピークへの意味のある基準づけは不可能であるということだ ―― 試料が接地されていようと、分光器から絶縁されていようと。

7. ただし、この論争は決着していない

ここで公平を期す必要がある。反対の結論を出している研究もある。

カーディフ大学の David J. Morgan が Surface and Interface Analysis(2025, 57(1), 28-35, CC BY)に発表した論文の抄録は、こうまとめている。

帯電補正のための汚染炭素の有用性と頑健性に関する最近の文献での議論に関連して、本研究は著者が収集した 5 年分のデータを用いてその適用を検討する。データが圧倒的に示すのは、分光器や電荷補償の方法によらず、二次基準が望ましい少数の例外を除いて、C 1s の値 284.8 eV が電子的に絶縁された試料に対して適切であるということである。

正面から食い違っているように見える。だが、両者が測っているものは同じではない。ここが本節の要点である。

Greczynski(Linköping) Morgan(Cardiff の共同利用施設)
試料 金属・窒化物・炭化物など導電性の薄膜 360 試料 5 年分の実務データ。電子的に絶縁された試料と明記
電荷中和 一切使っていない 電荷補償の方法によらず、と明記
仕事関数 UPS で毎回測定(±0.05 eV)
結論 仕事関数を測らないと基準づけできない 284.8 eV で適切

Greczynski が扱ったのは接地された導電性試料で、仕事関数が 2.52 eV(Mg)から 5.35 eV(MoN)まで大きく振れる集団である。仕事関数の差がそのまま C 1s に出るのだから、ばらつくのは当然とも言える。一方 Morgan が扱ったのは、絶縁試料を電荷中和しながら測るという、多くのラボの日常である。

したがって、実務者にとっての正しい問いは「284.8 eV は正しいか」ではない。

自分の試料は、どちらの状況にいるのか。

導電性で接地している試料なら、仕事関数の影響を直接受ける。絶縁試料を中和銃で測っているなら、事情は変わる。そして、どちらであれ「284.8 eV と置いた」と書くだけでは、読み手はどちらか判断できない。

8. 帰結 ― データベースの同じ化学状態が、2.5 eV ばらついている

データベースにおける同一化学状態の報告値の広がりは、ZrO2 の Zr 3d5/2 で 2.5 eV、Al2O3 の Al 2p で 2.3 eV、NaCl の Na 1s で 1.6 eV、Si3N4 の Si 2p で 1.5 eV、SiO2 の Si 2p で 1.1 eV である
図解:文献値の幅が、同定しようとしている化学シフトと同じ大きさになっている

この問題が実害として現れる場所がある。文献値・データベース値のばらつきである。

Greczynski は、C 1s の大きなシフトが「XPS データベースにおいて同じ化学状態に対して報告される結合エネルギー値の大きな広がりの、ひとつの原因になりうる」として、次の実例を挙げている。

化合物 ピーク データベース中の報告値の広がり
ZrO2 Zr 3d5/2 2.5 eV
Al2O3 Al 2p 2.3 eV
NaCl Na 1s 1.6 eV
Si3N4 Si 2p 1.5 eV
SiO2 Si 2p 1.1 eV

ZrO2 の Zr 3d5/2 が 2.5 eV の幅で報告されている。 XPS で議論する化学シフトは、多くの場合 1〜3 eV の世界である。同定の根拠にする文献値の幅が、同定しようとしている差と同じ大きさになっている。

参照先である NIST X-ray Photoelectron Spectroscopy Database(SRD 20, Version 5.0、データ内容の最終更新 2023、doi:10.18434/T4T88K)は、公開文献の批判的評価から作られており、22,000 を超える線位置・化学シフト・二重項分裂・エネルギー分離を収録している。だが、収録元の各論文がどう帯電補正したかまでは揃えようがない。

データベースが悪いのではない。ゼロ点の決め方が揃っていないまま、値だけが集まっている。

9.「3λ で 95 %」は正しい。「99.7 %」は正しくない

指数減衰では深さ 1λ までから 63.2 %、2λ までから 86.5 %、3λ までから 95.0 %、5λ までから 99.3 % の信号が来る。99.7 % とするのは正規分布の 3σ と混同した誤りである
図解:3λ より深いところからも、5 % の信号が来ている

エネルギー軸の話から、深さの話に移る。

XPS が表面敏感なのは、X線が浅くしか入らないからではない。X線は µm オーダーまで入る。浅いのは、出てこられる電子の方である。固体中の電子は非弾性散乱でエネルギーを失うので、エネルギーを保ったまま脱出できるのは表面近くで生まれた電子だけだ。この距離の尺度が非弾性平均自由行程(IMFP, λ)である。

深さ z で生まれた光電子が信号に寄与する割合は、指数関数で減衰する。

I(z) = I0 exp( −z / (λ cos θ) )

したがって、深さ nλ までから来る信号の累積割合は 1 − exp(−n) である。計算してみる。

深さ 1 − exp(−n) 累積割合
1 − e−1 63.2 %
1 − e−2 86.5 %
1 − e−3 95.0 %
1 − e−5 99.3 %

3λ = 95.0 %。「情報深さ ≈ 3λ」という約束事は、ここから来ている。

ところが、広く参照されている XPS の解説には、別の説明が併存している。英国の XPS 全国施設 HarwellXPS のナレッジベースには、同じ 1 ページの中に次の 2 つの記述がある。

光電子の約 68 % は深さ λ 以内から来るのに対し、大多数(99.7 %)の光電子は深さ 3λ から来る。

情報深さはしばしば IMFP の 3 倍で近似され、これは検出される電子の 95 % が由来する深さの実用的な推定値を与える。この近似は、光電子信号の深さに対する指数減衰を説明するものである。

もうひとつ、XPS の解析でよく参照される XPS Reference Pages にも、こうある。

1 シグマ(σ)(すなわち 68 %)の光電子が深さ 1λ 以内から来るのに対し、大多数(3σ すなわち 99.7 %)の光電子は 3λ から来る。

68 % と 99.7 % は、正規分布の 1σ と 3σ の値である。(正確には 68.3 % と 99.7 %。)だが、ここで起きているのは指数減衰であって、正規分布ではない。λ は標準偏差ではなく、平均自由行程である。上の表のとおり、正しい値は 63.2 % と 95.0 % になる。

この違いは、実務でどう効くか。「3λ より深いところからは、ほぼ何も来ていない」(99.7 %)と考えるか、「3λ より深いところから 5 % 来ている」(95.0 %)と考えるかの差である。極薄膜の下地からの寄与を見積もるとき、5 % と 0.3 % では結論が変わりうる。

XPS の教科書的な数字ですら、こうなっている。λ の値そのものを心配する前に、λ の使い方の定義を確認したほうがよい。

10. 情報深さは、光源を変えると 1.9 倍になる

C 1s の IMFP は Al Kα(光子エネルギー 1486.6 eV、運動エネルギー 1201 eV)で 3.14 nm、Ag Lα(2984.3 eV、2699 eV)で 5.89 nm と約 1.9 倍になる。代償は光イオン化断面積の減少である
図解:深く見ることは選べる。ただし、ただではない

λ は定数ではない。電子の運動エネルギーと、通り抜ける物質で変わる。

Kratos の技術資料が、同じ C 1s について具体的な数値を出している。

C 1s(BE 285 eV)の非弾性平均自由行程は、Al Kα X線を用いると運動エネルギー 1201 eV で 3.14 nm であるが、Ag Lα では運動エネルギー 2699 eV で 5.89 nm に増加する

約 1.9 倍である(筆者計算)。情報深さ 3λ に直すと、9.4 nm が 17.7 nm になる。

Ag Lα は光子エネルギー 2984.3 eV、Al Kα(1486.6 eV)のおよそ 2 倍で、光子エネルギー 2100 eV 超の領域を HAXPES(硬X線光電子分光)と呼ぶ。装置的にうまくできているのは、陽極を銀に替えるだけで済む点だ ―― 同じ石英結晶モノクロメーターの 2 次回折を使えるので、鏡を共用できる。Ag Lα のような高エネルギー源では、情報深さは最大 10 nm 程度まで届く(ただし運動エネルギー依存)。

もちろん代償がある。Kratos の同じ資料が明記している。

高い光子エネルギー源でデータを取得する際の考慮事項は、光イオン化断面積の減少に関係する。

光子エネルギーを上げると、光電子が出る確率そのものが下がる。深く見るために、感度を払う。

ここは XRF の記事と並べると構造がよく見える。

変えるもの 深さの変化 代償
XRF 検出する線(K 線 → L 線) Mo で 60 µm → 1.5 µm(40 倍浅く 分光干渉が増える
XPS X線源(Al Kα → Ag Lα) C 1s で 3.14 nm → 5.89 nm(1.9 倍深く 光イオン化断面積が下がる

どちらも「深さは選べる。ただし、ただではない」という同じ物理である。 ちなみに XRF が µm、XPS が nm ―― 同じX線を使いながら、見ている深さは 3 桁違う。

11. 定量の確度は、元素によって 5 倍違う

定量確度は第 1 周期元素のみのポリマーで ±4 % より良い一方、遷移金属・ランタノイド・アクチノイドの酸化物では ±20 % より良くするのが困難である。Scofield の断面積自体は真に均質な材料に対して 95 % の確度を持つ
図解:理論断面積は ±5 %。それでも実測の定量は元素で 5 倍違う

XPS は原子%(at%)を出す。ピーク面積を相対感度係数(RSF)で割って規格化するだけなので、標準試料が要らない。これは大きな利点である。

問題は、その at% がどれくらい確かなのか、である。The International XPS Spectra-Base に収録された解説が、率直な数字を挙げている。

定量はしばしば容易ではなく、強く材料依存である。一方の極端では、第 1 周期元素のみを含むポリマーにおいて ±4 % より良い確度がルーチンに実証されているのに対し、もう一方の極端である遷移金属・ランタノイド・アクチノイドの酸化物では、強いサテライト構造を伴う複雑なスペクトルが関わる場合、±20 % より良い値をルーチンに達成することは問題になりうる

±4 % と ±20 %。同じ手法・同じ装置で、元素によって 5 倍違う。(しかもこの議論は「平坦でバルクな均質材料」に限った話で、深さ方向に組成が変わる試料やナノ粒子はさらに難しい、と原文が続けている。)

なぜ差が出るのか。理由は RSF の出どころにある。理論側の基礎は Scofield が計算した光イオン化断面積で、これが事実上の国際標準になっている。その確度は同資料によれば、

すべての因子を考慮すれば、Scofield の数値は真に均質な材料に対して 95 % の確度水準で信頼できる。

つまり理論断面積そのものは ±5 % 程度である。独立した検証もある。

Scofield を Lindau と Yeh と照合すると、hν = 1486 eV において周期表全体にわたり 6 % 以内で一致しており、Scofield の値が一貫してわずかに高い。Z < 20 では計算値は驚くほど近い。

理論が ±5 %、独立した2つの計算が 6 % 以内で一致しているのに、実測の定量確度が ±20 % まで悪化する。 差の出どころは断面積ではなく、開殻の価電子構造がもたらす多重項分裂・強いシェイクアップサテライト・非対称なピーク形状である。要するに「どこまでをそのピークと数えるか」が決まらない。

XPS の定量誤差の主要因は、物理定数ではなくピーク分離の判断なのである。

12. 1982 年のラウンドロビンが残したもの

1982 年に Wagner らが 135 標準物質・62 元素で作ったデータベースでは、LiF の Li 1s が 4 回測定で約 35 %、Na 1s が 8 回測定で 2 倍、Zn 2p が 3 回測定で 35 % ばらついた。純銅で試行錯誤すると 20 atom % を ±1〜2 atom % で返すが 1〜2 時間かかる
図解:数値が出ることと、その数値が正しいことは別である

では、実測の RSF はどう決まったのか。歴史をたどると、いま使われている数字の足元が見える。

1982 年、Wagner らは 135 の標準物質から、周期表の 62 元素についての相対ピーク強度のデータベースをまとめた。値は F 1s を 1 として規格化された。2 台の初期の商用装置(Varian と PHI)が使われ、装置間の差に一貫した傾向が見られなかったことを根拠に、装置特性は(影響しないものと)仮定された

そのばらつきが、率直に記録されている。

測定 回数 ばらつき
LiF の Li 1s 4 回 約 35 %
Na 1s 8 回 2 倍(factor of 2)
Zn 2p 3 回 35 %

装置間・ラボ間の差に、有意な傾向は見出されなかった。

同じ物質の同じピークが、ラボを変えると 2 倍違った。しかも「装置差ではない」と言えるだけの傾向すら出なかった ―― つまり原因が特定できなかった。同資料は後段で、当時のデータには生スペクトルが添付されておらず、バックグラウンドの引き方の不一致や表面汚染が原因と考えられる、と補足している。

ここでも XRD の記事と同じ構図が出る。あちらでは自動リートベルトの偽陽性が全定量結果の 18〜30 % を占めた。こちらでは 1982 年の RSF 決定に 35 %〜2 倍のばらつきが含まれていた。数値が出てくることと、その数値が正しいことは別である。

では現場はどうしているか。同資料には、いまも通用する実務が書かれている。SSI 系の装置では、通過エネルギーごとに「感度指数」というパラメータ(既定値 0.7)を持っていて、これを試料に合わせて調整する。その調整法が生々しい。

新鮮にイオンエッチングした多結晶銅箔を測り、試行錯誤で有用な数値を決める。適切な数値を入れれば、5 本の銅のピーク(2p1/2, 2p3/2, 3s, 3p, 3d)はいずれも 20 atom % を ±1〜2 atom % の不確かさで返す。指数がひどく間違っていれば、10 %, 11 %, 26 %, 24 %, 29 % のような値になる。この試行錯誤には 1〜2 時間を要することがあり、4〜5 通りの通過エネルギーそれぞれについて行う。

純銅という「答えが分かっている試料」に対して、装置が正しい 20 % を返すまで、1〜2 時間かけてパラメータを合わせる。

これは裏を返せば、その作業をしていない装置が返す at% は、どれだけずれているか分からないということである。XPS の at% は標準試料なしで出るが、「標準試料が要らない」ことと「校正が要らない」ことは違う。

分析者の視点

ここまでを実務の判断に落とす。

  1. 「C 1s = 284.8 eV で補正した」だけでは足りない。 試料が導電性で接地されていたのか、絶縁体を電荷中和して測ったのかを併記する。両者で議論の前提が変わる(7 節)。
  2. 導電性試料で、下地の仕事関数が大きく違うものを比較するときは要注意。 360 試料の実測で C 1s は 2.89 eV 動き、その和 EBF + φSA は 289.58 ± 0.12 eV で一定だった(6 節)。
  3. 文献値と 1 eV 合わないことを、直ちに化学状態の違いと解釈しない。 ZrO2 の Zr 3d5/2 はデータベース内で 2.5 eV の幅を持つ(8 節)。
  4. エネルギー軸の許容限界を、自分で決めて文書に残す。 ISO 15472 は d を定義せず「利用者が選択する」と明記している。実例として ±0.3 eV / ±0.4 eV を選んで 8 年運用した記録がある(4 節)。
  5. 「3λ から 99.7 %」と書かない。正しくは 95.0 %。 3λ より深いところから 5 % 来ている(9 節)。
  6. 情報深さを一定の数字として扱わない。 同じ C 1s でも光源を Al Kα から Ag Lα に替えれば λ は 3.14 nm から 5.89 nm になる(10 節)。
  7. at% の確度を元素で区別する。 第 1 周期元素中心の有機物なら ±4 %、遷移金属酸化物なら ±20 % を覚悟する(11 節)。
  8. 定量を出す装置は、答えの分かっている試料で確かめてから使う。 純銅で 20 at% が ±1〜2 at% で返るかを見る、という手順が実際に運用されている(12 節)。

まとめ

XPS は、元素の存在だけでなく化学状態まで一度に読める、きわめて情報量の多い手法である。半導体・電池・触媒・接着といった分野で、これに代わるものはなかなかない。

だが本記事で見てきたとおり、その情報量は前提の上に乗っている。

  • エネルギー軸は ISO 15472 が 83.96 / 368.21 / 932.62 eV の 3 点で校正する。ただし合否の線は利用者が引く。
  • 試料のゼロ点は、360 試料の実測で 2.89 eV 動いた。ただし論争は決着していない ―― 導電性試料と絶縁試料で話が違う。
  • 情報深さは 3λ で 95.0 %(99.7 % ではない)。しかも λ は光源と物質で変わる。
  • 定量確度は元素によって ±4 % 〜 ±20 % と 5 倍違う。RSF の起源には 35 %〜2 倍のばらつきが含まれていた。

これらは XPS の欠陥ではない。引き算で結合エネルギーを出し、指数減衰で深さを推し、断面積で個数を推す ―― という手法の成り立ちが、そのまま前提として残っているだけである。

XRF は「元素ごとに違う深さを見ている」ことを引き受ける手法だった。XRD は「相ごとに違う定量限界を持つ」ことを引き受ける手法だった。XPS は「エネルギー軸のゼロ点を、自分で決めて明示する」ことを引き受ける手法である。

3 つに共通するのは、権威が真の値は与えるが、判断の線は引いてくれないという点だ。線を引くのは、いつも分析者である。

用語集

  • XPS / ESCA:X線光電子分光。試料にX線を照射し、光電効果で放出される電子の運動エネルギーを測って結合エネルギーに変換し、元素と化学状態を調べる方法。ESCA は Electron Spectroscopy for Chemical Analysis の略で、同じ手法の別名。
  • 結合エネルギー(BE):BE = hν − KE − φ。直接測るのは運動エネルギー KE で、BE は引き算の結果である。
  • 化学シフト:同じ元素でも、結合相手や酸化状態によって結合エネルギーがずれる現象。XPS で化学状態を判別する根拠。
  • 仕事関数(φ):固体からフェルミ準位の電子を真空中に取り出すのに必要な最小エネルギー。本記事では試料仕事関数 φSA として登場する。
  • 汚染炭素(adventitious carbon, AdC):大気曝露で試料表面に付着する薄い炭化水素層。その C 1s ピークが帯電補正の基準として広く使われている。
  • 帯電補正(charge referencing):絶縁試料の帯電によるスペクトル全体のシフトを戻す操作。ISO 15472 が規定するエネルギー軸の校正とは別の問題である。
  • 非弾性平均自由行程(IMFP, λ):電子が非弾性衝突でエネルギーを失うまでに進む平均距離。運動エネルギーと物質で変わる。
  • 情報深さ:検出される信号の大半が由来する深さ。慣例として 3λ が使われ、これは全信号の 95.0 % に相当する。
  • 相対感度係数(RSF):ピーク面積を原子%に変換するための係数。理論側の基礎は Scofield の光イオン化断面積。
  • 通過エネルギー(pass energy):静電半球型アナライザーを通過する電子のエネルギー。小さくすると分解能が上がり、感度が下がる。
  • HAXPES:硬X線光電子分光。光子エネルギー 2100 eV 超の励起源を使い、より深い情報を得る。Ag Lα(2984.3 eV)が代表例。
  • UPS(紫外光電子分光):紫外光(He I なら 21.22 eV)を使う光電子分光。価電子帯や仕事関数の測定に使われる。本記事では φSA の測定手段として登場する。

出典

  1. 第十九改正日本薬局方 一般試験法(厚生労働省、2026年4月10日告示・同日適用)― 全文検索により「XPS」「ESCA」「表面分析」いずれも 0 件、「光電子」4 ページはすべて光電子増倍管・光電子セルであることを確認 https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001689414.pdf
  2. ISO 15472:2010, "Surface chemical analysis — X-ray photoelectron spectrometers — Calibration of energy scales"(公開プレビュー 12 ページ)― 適用範囲(非単色 Al/Mg または単色 Al、イオン銃を備えた装置、0〜1040 eV)、許容限界 d を規格が定義せず利用者が選択する旨、d は 0.1 eV かつ 4 sR より大きく選ぶこと、Au と Cu を選ぶ理由、直線性試験に Ag を使うこと https://cdn.standards.iteh.ai/samples/55796/72dc0295fe1447ec93e6a6c190572c1b/ISO-15472-2010.pdf
  3. U. Scheithauer, "Long Time Stability of the Energy Scale Calibration of a Quantum 2000", J. Electron Spectrosc. Relat. Phenom. 184 (2012) 542-546(プレプリント、doi:10.1016/j.elspec.2011.08.007)― ISO 15472 の基準値 Au 4f7/2 83.96 eV / Ag 3d5/2 368.21 eV / Cu 2p3/2 932.62 eV、NPL 認証箔(SCAA90, 419)、放物線フィット、通過エネルギー別に ±0.3 / ±0.4 eV の許容限界を選んで 8 年運用した記録 https://library4xps.org/wp-content/uploads/--PHI-app-notes/Long-Time-Stability.pdf
  4. G. Greczynski, "Binding energy referencing in X-ray photoelectron spectroscopy: expanded data set confirms that adventitious carbon aligns to the vacuum level", arXiv:2405.10919(リンショーピング大学)― 360 試料、Kratos Axis Ultra DLD・単色 Al Kα 1486.70 eV・中和銃不使用、φSA は He I UPS から ±0.05 eV、C 1s の変動 2.89 eV(ISO ガイドラインの範囲の 7 倍)、EBF + φSA = 289.58 ± 0.12 eV、Mg 286.90 eV / MoN 284.08 eV、差動帯電の否定、データベース中の広がり(ZrO2 2.5 eV ほか) https://arxiv.org/pdf/2405.10919
  5. D. J. Morgan, "The Utility of Adventitious Carbon for Charge Correction: A Perspective From a Second Multiuser Facility", Surf. Interface Anal. 2025, 57(1), 28-35(doi:10.1002/sia.7360、CC BY)― 5 年分のデータから「分光器や電荷補償法によらず、少数の例外を除いて C 1s 284.8 eV は電子的に絶縁された試料に対して適切」。本文は入手できず、抄録のみ参照した(末尾「未確認・限界」参照) https://doi.org/10.1002/sia.7360
  6. The International XPS Spectra-Base, "Quantitation, RSFs and Atom% Results" ― 定量確度 ±4 %(第 1 周期元素のポリマー)対 ±20 %(遷移金属・ランタノイド・アクチノイド酸化物)、Scofield 断面積の 95 % 確度、Scofield と Lindau & Yeh の 6 % 以内の一致、Wagner ら 1982 年の 135 標準物質・62 元素のラウンドロビン(Li 1s 約 35 %、Na 1s 2 倍、Zn 2p 35 %)、感度指数と純銅による試行錯誤(20 atom% ± 1〜2 atom%、1〜2 時間) https://xpsdatabase.com/quantitation-rsfs-and-atom-results/
  7. Kratos Analytical, "Hard X-ray Photoelectron Spectroscopy (HAXPES)" ― Al Kα 1486.6 eV / Mg Kα 1254.6 eV、HAXPES の定義(2100 eV 超)、Ag Lα 2984.3 eV と 2 次回折によるモノクロメーター共用、C 1s の IMFP が Al Kα で 3.14 nm(KE 1201 eV)、Ag Lα で 5.89 nm(KE 2699 eV)、情報深さ最大 10 nm、光イオン化断面積の減少 https://www.kratos.com/techniques/hard-x-ray-photoelectron-spectroscopy-haxpes/
  8. NIST X-ray Photoelectron Spectroscopy Database (SRD 20), Version 5.0(doi:10.18434/T4T88K、データ内容最終更新 2023。Naumkin, Kraut-Vass, Gaarenstroom, Powell 編)― 公開文献の批判的評価に基づく 22,000 超の線位置・化学シフト・二重項分裂・エネルギー分離 https://srdata.nist.gov/xps/
  9. HarwellXPS Guru, "Analysis Depth in XPS & IMFP" ― 同一ページ内に「約 68 % が λ 以内、99.7 % が 3λ から」と「3λ は検出電子の 95 % が由来する深さで、指数減衰を説明するもの」の両方の記述があることを確認 https://www.harwellxps.guru/xpskb/analysis-depth-in-xps-imfp/
  10. X-ray Photoelectron Spectroscopy (XPS) Reference Pages, "Depth of Analysis, Inelastic Mean Free Path" ― 「1 シグマ(68 %)が 1λ 以内、3σ すなわち 99.7 % が 3λ から」という記述 http://www.xpsfitting.com/2012/08/depth-of-analysis-inelastic-mean-free.html

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未確認・限界

  1. Morgan の論文は本文を入手できなかった。 CC BY で公開されているが、出版社サイト・大学リポジトリ(ORCA)・アグリゲータのいずれも 403 を返した。本記事が引用したのは抄録の記述のみであり、試料数・分光器の機種・C 1s の分布(平均値や標準偏差)・「例外」とされた具体的なケースは確認できていない。7 節の比較表のうち Morgan 側の欄は、抄録に明記されている事項に限っている。
  2. したがって「論争の決着」については本記事は判断していない。 7 節で示したのは「両者の測定条件が異なる」という事実であり、どちらの結論が一般に正しいかを述べたものではない。
  3. ISO 15472 の本文は購読が必要で、公開プレビュー 12 ページのみを参照した。 引用した適用範囲と許容限界 d の規定はプレビュー内に含まれていたが、基準値 83.96 / 368.21 / 932.62 eV はプレビューには含まれておらず、査読論文(出典 3)経由で確認した。規格本文の表そのものは見ていない。
  4. ISO 24237(繰り返し性・恒常性)については確認していない。 4 節で扱ったのはエネルギー軸の校正(ISO 15472)に限る。
  5. 装置スペックの横断比較表は作らなかった。 各社の公式製品ページは JavaScript による動的読み込みで仕様表が取得できず(Thermo)、あるいはリダイレクトの問題があった。ディープリサーチは大学共同利用施設のページ由来のスペック(X線ビーム径 5〜15 µm、Ag 3d5/2 の半値幅 0.48 eV、検出限界 0.1 at% 程度など)を返したが、メーカー公式で確認できなかったため採用していない。
  6. 深さ方向分析(デプスプロファイル)とガスクラスターイオンビーム(GCIB)は本記事では扱っていない。 資料は収集したが、PHI の該当ページが動的生成で本文を取得できず、単原子イオンと GCIB のスパッタ速度・深さ分解能・損傷を横並びで比較できる一次数値を確認できなかった。別記事に譲る。
  7. 角度分解 XPS、雰囲気制御 XPS(AP-XPS)、イメージング XPS の空間分解能についても扱っていない。 同じ理由による。
  8. ディープリサーチが返した数値のうち、URL を持たない合成ドキュメントに帰着するものは不採用とした(装置スペックの一部、および低温 XPS による化学変化の抑制率など)。また、出典が市場調査レポートであった数値も採用していない。
  9. 9 節の 63.2 % / 86.5 % / 95.0 % は、筆者が 1 − exp(−n) を計算した値である。 出典に記載された値をそのまま引いたものではない(HarwellXPS は 95 %、XPS Reference Pages は 99.7 % と記載しており、両者は一致しない)。計算の前提は「光電子強度が深さに対して指数減衰し、脱出角が表面法線方向(θ = 0)である」ことである。
  10. 10 節の「約 1.9 倍」は、Kratos の資料に記載された 3.14 nm と 5.89 nm から筆者が計算した比である。両者は同じ C 1s についての値だが、対象物質は資料に明記されていない。

制作メモ:ディープリサーチで一次情報の候補を収集し、編集側で薬局方原文・ISO 規格の公開部分・査読論文・プレプリント・メーカー公式技術資料にあたって検証のうえ執筆した。本文中の比率および累積割合は、出典に記載された数値から筆者が計算したもので、その旨を明記している。ディープリサーチの生成物のうち、出典が合成ドキュメントまたは市場調査レポートに帰着する数値は、すべて不採用とした。