LC検出器の選び方 ― 「ダイナミックレンジ4桁」は「直線範囲4桁」ではない【2026年版】
クロマトグラフィー

LC検出器の選び方 ― 「ダイナミックレンジ4桁」は「直線範囲4桁」ではない【2026年版】

LC検出器の選定は、まず「発色団があるか」で分岐する。無ければ RI・ELSD・CAD といったユニバーサル検出器に 進むが、そこからカタログの数字が急に読みにくくなる。CAD の「ダイナミックレンジ4桁」は、Thermo 自身の技術資料に 「準直線なのは 1.5〜2 桁だけ」と書かれている。ELSD の検出限界は減衰設定ごとに変わる。そして両者とも非線形なので、 高濃度標準1点から S/N を外挿した検出限界は「completely meaningless」だと、そのメーカー自身が明言している (実測では外挿値と実測値が 5〜13 倍ずれた)。本記事は Agilent・Waters・Thermo の仕様書と技術資料、 そして査読論文を原典で確認し、ノイズ仕様がなぜ横並び比較できないのか、光路長と分散のトレードオフ、 蛍光検出器のカタログに「>500」と「>3000」が併記される理由、そして UHPLC でセル容量とデータ収集速度が どこまで効くのかを、数値で整理する。

LC検出器のカタログには、たいてい大きな数字が載っています。「ダイナミックレンジ 4 桁」。ユニバーサル検出器である荷電化エアロゾル検出器(CAD)の仕様書にも、確かにそう書かれています(Thermo, PS-71516)。

ところが同じメーカーが出している技術資料を開くと、こうあります。

CAD response is commonly described as approximately linear, or quasi-linear, over a range of 1.5 to 2 orders of magnitude (10^1.5–10^2), but non-linear over a wider range. (CAD の応答は 1.5〜2 桁の範囲で近似的に直線、あるいは準直線と表現されるのが一般的で、それより広い範囲では非線形である) — Thermo Technical Note 73299

ダイナミックレンジ 4 桁、準直線は 1.5〜2 桁。矛盾ではありません。「信号が出る範囲」と「直線とみなせる範囲」が別物なだけです。しかし定量分析で必要なのは後者であり、カタログの表紙に載っているのは前者です。

同じことは検出限界にも起きます。非線形な検出器で、高濃度の標準1点の S/N から検出限界を外挿すると、実測とどれくらいずれるのか。Thermo 自身が実測しています。

化合物 62.5 ng 注入の S/N から外挿した LOD 検量線から求めた実測の LOD(S/N ≥ 3)
ELSD・テオフィリン 1.7 ng 8 ng
ELSD・カフェイン 3.2 ng 16 ng
CAD・テオフィリン 0.1 ng 0.5 ng
CAD・カフェイン 0.3 ng 4 ng

外挿値と実測値が 5〜13 倍ずれています。この表を載せた資料には、こう書かれています。

While it is common practice to estimate the limits of detection (LOD) or limits of quantification (LOQ) for a linear detector by extrapolation of signal to noise ratio from a single high level standard, the same cannot be done for non-linear detectors and any estimates derived this way are totally meaningless and misleading. (直線検出器では高濃度標準1点の S/N から LOD や LOQ を外挿するのが一般的だが、非線形検出器で同じことはできず、そうやって得た推定値は完全に無意味で誤解を招く)

検出器の選定とは、カタログの数字が何を意味しているかを見分ける作業でもあります。この記事は、UV/PDA・蛍光・RI・ELSD・CAD の5系統について、メーカーの仕様書・技術資料と査読論文を原典で確認しながら、次の順序で選定を整理します。

  1. 発色団があるか(UV/PDA が使えるかどうかの分岐)
  2. 何桁測るか(直線範囲の要求)
  3. UHPLC の制約に耐えるか(セル容量・データ収集速度・耐圧)

この記事の読み方:1〜2節は前提の整理で、入門者向けです。3〜5節が UV/蛍光のカタログの読み方6〜9節がユニバーサル検出器(RI・ELSD・CAD)の核心、10〜11節がグラジエントと UHPLC の制約、12節が目的別の選択です。カラム側の選定はHPLCカラムの選び方UHPLCカラム技術、ベースラインが荒れたときの切り分けはHPLCトラブルシューティング、公定法の条件調整はJP19〈2.00〉、質量分析による検出はイオン源の選び方をあわせてご覧ください。

1. 検出器はカラムの後ろで何をしているか ― 2つの型

濃度感応型と質量流量感応型の違いを示した図解
図解:検出器は濃度感応型(UV・蛍光・RI)と質量流量感応型(ELSD・CAD・MS)に分かれる。ELSD・CAD・MS は試料を消費する破壊型なので、直列につなぐなら必ず最後に置く。

LC検出器は、分離が終わった溶出液の中を成分が通過したことを電気信号に変える装置です。分離がどれほど良くても、検出器が応答しない成分は存在しないのと同じになります。

検出器は大きく2つの型に分かれます。この区別は流量を変えたときの挙動を決めるので、選定の前提として押さえておきます。

信号が比例するもの 該当する検出器 流量を上げると
濃度感応型(concentration-sensitive) セル内の濃度 UV/PDA・蛍光・RI ピークが希釈され、面積は減る
質量流量感応型(mass-flow-sensitive) 単位時間に入る質量 ELSD・CAD・MS ピーク面積は原理的には保たれる

もうひとつ、破壊型か非破壊型かという区別があります。UV/PDA・蛍光・RI は試料を壊さずに通しますが、ELSD・CAD・MS は溶出液を噴霧・蒸発させるので試料はそこで消えます。だから破壊型は必ず直列の最後に置くか、手前で流路を分ける必要があります。

用語補足:ユニバーサル検出器とは、化合物の構造にあまり依存せず「そこに物質があること」を検出する検出器のことです。RI・ELSD・CAD が該当します。対して UV/PDA・蛍光は、特定の性質(発色団・蛍光)を持つ成分だけを見る選択的検出器です。

2. 選定は2回分岐する ― 「見えるか」と「何桁測るか」

検出器選定の2回の分岐を示した図解
図解:選定は2回分岐する。①発色団があるか(無ければユニバーサル検出器へ)②何桁を直線で測るか(不純物試験は3〜4桁)。加えて UHPLC ではセル容量とデータ収集速度が制約になる。

選定の判断は、次の順で降りていきます。

第1分岐:目的成分に発色団があるか。 UV 領域に十分な吸収があるなら UV/PDA が第一選択です。安価で、堅牢で、直線範囲が広く、非破壊で、公定法での実績も圧倒的です。蛍光を持つ(または誘導体化で持たせられる)なら、蛍光検出器で選択性と感度をさらに上げられます。

発色団が無い成分——糖類、脂質、界面活性剤、アミノ酸、対イオン、そして多くの合成中間体——は、ここで UV の外に落ちます。「UV で見えない成分がある」ことが、ユニバーサル検出器を検討する唯一の理由です。

第2分岐:何桁の濃度範囲を、直線で測る必要があるか。 主成分の定量だけなら 1〜2 桁で足ります。しかし不純物試験は、主成分と 0.05% レベルの不純物を同じ分析で測るので、3〜4 桁が必要になります。ここでユニバーサル検出器のカタログの読み方が効いてきます(8〜9節)。

第3の制約:UHPLC のピークに耐えるか。 2.1 mm 内径のカラムから出てくるピークは体積が小さく、セル容量とデータ収集速度が直接ピーク形状に効きます(11節)。日本薬局方も、この点を条件調整の注意事項として明記しています。

より小さな粒子径,又は,より小さなカラム内径への試験条件の変更により,ピークボリュームがより小さくなる場合には,装置配管,検出器のセル容量,サンプリング速度及び注入量のような要因によりカラム外拡散を最小にすることが必要なことがあり注意が必要である. — 第十九改正日本薬局方 一般試験法〈2.00〉クロマトグラフィー総論

3. UV/PDA ― ノイズ仕様は横並び比較できない

UV/PDA のノイズ仕様と光路長のトレードオフを示した図解
図解:ノイズ仕様は時定数が違えば横並び比較できない。Agilent DAD は 3×10⁻⁶ AU で時定数 2 s、Waters TUV は 6×10⁻⁶ AU で時定数 1.0 s。光路長 60 mm は 1 cm あたりノイズが 5 分の 1 になる代わりに、分散に効く体積が 1.0 から 4.0 µL へ増える。

UV 検出器の中核はランベルト・ベールの法則です。吸光度は濃度と光路長に比例する。だから感度を上げたければ光路長を伸ばせばよい——これは正しいのですが、代償があります。

まず、各社のノイズ仕様を並べてみます。

機種 ノイズ仕様 測定条件
Agilent 1290 Infinity II DAD(G7117B)10 mm セル <±3×10⁻⁶ AU 230/4 nm、スリット幅 4 nm、TC 2 s、ASTM
同上・60 mm セル <±0.6×10⁻⁶ AU/cm 同条件
Waters ACQUITY UPLC TUV 6×10⁻⁶ AU 230 nm、10 mm シャントセル、フィルタ時定数 1.0 s

数字だけ見ると Agilent が 2 倍良さそうに見えます。しかし時定数(TC)が 2 s と 1.0 s で違います。時定数はノイズを平滑化するローパスフィルタなので、長くすればノイズは下がり、そのぶんピークは鈍ります。条件が違う数字を並べても意味がありません。

さらに Agilent は「±3×10⁻⁶」、Waters は「6×10⁻⁶」と書き方も違います。ピーク・トゥ・ピークで見るのか片側で見るのかが揃っていない。ノイズ仕様は、時定数・波長・スリット幅・セル・測定規格(ASTM E1657)がすべて一致していない限り、横並び比較できません。これは質量分析計の選び方で見た感度スペックの問題と同じ構造です。

ドリフトも同様です。Agilent は「<0.5×10⁻³ AU/h at 230 nm」、Waters は「≤5.0×10⁻⁴ AU/hour/°C at 230 nm」。Waters の値は温度 1 ℃ あたりで規定されており、そもそも次元が違います。

光路長のトレードオフ ― 感度とピーク形状は交換関係にある

Agilent 1290 Infinity II DAD のフローセルのラインナップは、この交換関係をきれいに見せてくれます。

セル 光路長 分散に効く体積 σV 位置づけ
Max-Light ULD 10 mm 0.6 µL 超低分散。UHPLC の細いピーク向け
Max-Light 標準 10 mm 1.0 µL 標準
Max-Light HDR 3.7 mm 0.8 µL 高濃度側を飽和させない
Max-Light 高感度 60 mm 4.0 µL 単位長さあたりノイズが 1/5

60 mm セルは、1 cm あたりに直すとノイズが 5 分の 1 になります。ただし σV は 1.0 → 4.0 µL、4 倍。ピークはそのぶん広がります。Waters も同じ構造で、分散体積は分析用フローセルが ≤0.8 µL、高感度フローセルが ≤1.5 µL です(セル容量は分析用で 500 nL、光路長 10 mm)。

感度が欲しければセルを長くする。しかしピークは広がる。この選択は、カラムのピーク体積が十分大きい(=4.6 mm 内径・従来型 HPLC)なら安くつき、2.1 mm 内径の UHPLC なら高くつきます。

このトレードオフを実測で示した査読論文があります(Werres ら, Anal. Bioanal. Chem. 2022)。マイクロLC(0.3 mm 内径、1.9 µm 粒子)で、光導波路で 6 nL のセルをカラム直後に置いた DAD 1(Knauer AZURA、カラム後容量 202 nL)と、通常のモジュール型 DAD 2(Agilent 1260 Infinity II DAD WR、80 nL セル、カラム後容量 865 nL)を比較したところ——

  • DAD 1 の信号は DAD 2 の 8 分の 1 しかない(光路長が半分なのに、それ以上に落ちる)
  • しかし S/N は 1.5 倍しか違わない(16 対 24)
  • そして システム全体の分散は 38% 小さい(25 µL/min のとき)

信号が 8 分の 1 でも、S/N の差は 1.5 倍。「信号が大きい」と「S/N が良い」は別の話です。

4. 蛍光検出器 ― 同じ装置に「>500」と「>3000」が併記される理由

蛍光検出器のカタログに2つの S/N が併記される理由を示した図解
図解:同じ蛍光検出器のカタログに Raman S/N が「>500」と「>3000」の両方が載る。違いはノイズを信号側で測るか暗信号側で測るかだけ。最大データレートは 74 Hz、バンド幅は 20 nm 固定。

蛍光検出器(FLD)は、UV で見える成分のうち蛍光を持つものに対して、桁違いの選択性を与えます。UV は「その波長に吸収があるすべて」が写り込みますが、蛍光は励起波長と蛍光波長の両方が合った成分だけが出る。マトリックスの影響を受けにくい理由はここにあります。

ただしカタログの読み方には注意が要ります。Agilent 1260 Infinity II FLD(G7121A)の性能仕様を、そのまま引きます。

  • RAMAN (H2O) > 500noise reference measured at signal)Ex=350 nm, Em=397 nm, dark value 450 nm, standard flow cell
  • RAMAN (H2O) > 3000noise reference measured at dark value)Ex=350 nm, Em=397 nm, dark value 450 nm, standard flow cell (基準条件:標準セル 8 µL、応答時間 4 s、HPLC グレードの水、restriction capillary)

同じ装置、同じ試料、同じ波長で、「>500」と「>3000」が併記されています。違いは「ノイズをどこで測るか」だけ。信号のところで測るか、暗信号のところで測るか。それだけで数字が 6 倍変わります。

つまり、他社の蛍光検出器と「Raman S/N」を比べるときは、その数字がどちらの定義で測られたものかを確認しないと意味がありません。

実務上の制約もあります。同じ仕様書から:

  • 光源はキセノンフラッシュランプ(通常 20 W / 省電力 5 W、寿命 4000 時間
  • 励起・蛍光いずれもバンド幅は 20 nm 固定
  • 最大データレート 74 Hz

最後の 74 Hz は後で効いてきます。同じ Agilent の DAD が 240 Hz なのに対し、FLD は 74 Hz。細いピークを追う能力が 3 分の 1 以下です。

5. 発色団が無いとき ― ユニバーサル検出器の3択

発色団が無いときの3つの選択肢を示した図解
図解:発色団が無いときの選択肢は RI・ELSD・CAD の3つ。RI は原理上グラジエントが使えない。ELSD と CAD は噴霧して乾かすところまで同じで、乾いた粒子を光散乱で測るか電荷で測るかが違う。

糖類、脂質、界面活性剤、対イオン、アミノ酸、多くの合成中間体。UV で見えない成分を測るとき、選択肢は 3 つです。

検出器 原理 グラジエント 応答の均一性 破壊型
RI(示差屈折率) 移動相と溶質の屈折率差 使えない 屈折率差に依存 非破壊
ELSD(蒸発光散乱) 噴霧・乾燥後の粒子による光散乱 使える 低い(粒径依存が複雑) 破壊
CAD(荷電化エアロゾル) 噴霧・乾燥後の粒子の電荷を電流計で測る 使える 高い 破壊

ELSD と CAD は、噴霧して溶媒を飛ばし、残った粒子を測るという点まで共通しています。違うのは乾燥後の粒子をどう数えるか——光を散乱させるか、電荷を測るか。この一点が性能を大きく分けます(7〜8節)。

6. RI ― 5 bar という壁

RI 検出器の耐圧とグラジエント不可という制約を示した図解
図解:RI セルの最大圧力は 5 bar。DAD セルは 70 bar、Waters TUV は 1000 psi なので、RI だけが 14 分の 1 しかない。原理上グラジエントが使えず、セル容量 8 µL、最大データレート 74 Hz。

RI 検出器は、移動相そのものの屈折率と、溶質が溶けたときの屈折率のを測ります。原理的にどんな物質でも(屈折率が移動相と違いさえすれば)検出できる、最も古典的なユニバーサル検出器です。

そして原理から、グラジエントが使えません。移動相の組成が変われば移動相自身の屈折率が変わり、そのベースライン変動が試料のシグナルを完全に覆い隠してしまうからです。RI は等溶媒(アイソクラティック)専用です。

さらに、仕様書の数字が実務上の制約を突きつけてきます。Agilent 1260 Infinity II RID(G7162A)の性能仕様です。

項目 仕様
屈折率範囲 1.00〜1.75 RIU(校正済み)
測定範囲 ±600×10⁻⁶ RIU
光学系温度制御 室温+5 ℃ 〜 55 ℃
試料セル容量 8 µL
最大圧力 5 bar(0.5 MPa)
最大流量 5 mL/min
pH 範囲 2.3〜9.5
短期ノイズ <±1.25×10⁻⁹ RIU
ドリフト <200×10⁻⁹ RIU/時
最大データレート 74 Hz

最大圧力 5 bar。Agilent の DAD セルは連続使用 70 bar・瞬間 150 bar、Waters の TUV セルは 1000 psi(約 69 bar)ですから、RI セルはその 14 分の 1 しか耐えられません。

これは配管設計を直接縛ります。RI 検出器の下流に細い配管や別の検出器をつなぐと、背圧が上がってセルが壊れる。RI は事実上、直列の最後にしか置けません。光学系の温度制御が室温+5 ℃ から始まる点も、室温の変動がそのままドリフトになることを示しています。

RI が今も現役なのは、GPC/SEC のようにすべての成分を等溶媒で見なければならない用途と、屈折率差が大きく取れる高濃度の用途です。それ以外では、次の 2 つに置き換わってきました。

7. ELSD ― シグモイド応答はどこから来るのか

ELSD のシグモイド応答が生じる仕組みを示した図解
図解:ELSD のシグモイド応答は散乱領域の切り替わりから来る。指数 b がレイリー散乱 6/3、ミー散乱 4/3、屈折・反射 2/3 と変わるため、62 ng で S/N 108 だったテオフィリンが 8 ng では S/N 2 まで落ちる。減衰設定ごとに使えるのは 2 桁程度。

ELSD は、溶出液を噴霧して溶媒を蒸発させ、残った試料の粒子に光を当て、散乱光を光電子増倍管(PMT)で測ります。

なぜ応答が非線形になるのか。Thermo の技術資料が、物理をきれいに分解しています。

まず、噴霧と蒸発の過程はエアロゾル検出器に共通で、乾燥粒子の直径 D は溶質濃度 C の 3 乗根に比例します。

D = D₀(C/ρ)^(1/3)

つぎに、散乱光の強度 Q は粒子径 D と光源波長 λ の比で決まり、3 つの散乱領域を移り変わります。信号 S = aM^b と書いたときの指数 b(上の 1/3 を含めた値)は、領域ごとにこう変わります。

散乱領域 条件 散乱光の比例関係 指数 b
レイリー散乱 D/λ < 0.1 D⁶ に比例 6/3
ミー散乱 0.1 < D/λ < 1.0 D⁴ に比例 4/3
屈折・反射 D/λ > 1.0 D² に比例 2/3

b が 6/3 から 2/3 まで、比較的狭い範囲で劇的に変わる。だから ELSD の応答曲線はシグモイド(S字)になります。そして最も重要な帰結が、低濃度側の挙動です。

A major consequence of ELSD sigmoidal response is that the dynamic range is small and analyte signal rapidly decreases and completely disappears as the amount of analyte decreases. (ELSD のシグモイド応答の大きな帰結は、ダイナミックレンジが狭く、試料量が減るとシグナルが急速に減衰して完全に消えることである)

実測で見ると、こうなります。同じ試料を同じ条件で測って——

注入量 ELSD のテオフィリン ELSD のカフェイン CAD のテオフィリン CAD のカフェイン
62 ng S/N 108 S/N 59 S/N 1857 S/N 635
8 ng S/N 2 S/N 23 S/N 238 S/N 23

62 ng で S/N 108 だったテオフィリンが、8 ng では S/N 2。ほぼ消えています。CAD は同じ変化で 1857 → 238 と、素直に 1/8 弱に減っただけです。

減衰設定ごとに検出限界が変わる

もうひとつ ELSD 固有の事情があります。ELSD はゲインを連続的に変えるのではなく、PMT の出力を減衰(attenuation)させる方式を採ります。そして各減衰設定は、それぞれ固有の感度・ノイズ・必要フィルタ設定・ダイナミックレンジ・飽和点を持ちます。

減衰設定 テオフィリンの推定 LOD テオフィリンの飽和点 おおよその桁数
2 62 ng >10,000 ng 2
4 31 ng >10,000 ng <3
6 16 ng >10,000 ng <3
8 8 ng 4,000 ng <3
10 8 ng 1,000 ng 2
12 8 ng <1,000 ng 2

どの設定を選んでも、その設定でカバーできるのは 2 桁程度。不純物試験で主成分と微量不純物を同時に測ろうとすれば、少なくとも 2 つの減衰設定で測り直す必要が出てきます。これは時間のロスであり、同じ試料に対して 2 本の検量線を持つことでもあります。

ハードウェア仕様

Agilent 1260 Infinity II ELSD(G4260B / G4261B)の仕様も見ておきます。

項目 G4260B G4261B
光源 LED 480 nm(Class 1) レーザー 405 nm, 10 mW(Class 3B)
短期ノイズ <0.2 mV <0.1 mV
ドリフト <1 mV/h <1 mV/h
ネブライザ温度 OFF、25〜90 ℃ 同左
蒸発器温度 非冷却 OFF、25〜120 ℃ / 冷却 OFF、10〜80 ℃ 同左
ガス流量 0.9〜3.25 SLM 同左
溶離液流量 0.2〜5.0 mL/min 同左
デジタル出力 10, 40, 80 Hz(24 bit) 同左

短い波長のレーザー(405 nm)にするとノイズが半分になるのは、散乱効率が λ に依存するからです。光源を変えるだけで感度が変わるのは ELSD ならではで、CAD には無い性質です。

8. CAD ― 「4桁」と「1.5〜2桁」、そして PFV

CAD のダイナミックレンジと準直線範囲の違いを示した図解
図解:仕様書は「ダイナミックレンジ 4 桁」、同社の技術資料は「準直線は 1.5〜2 桁」。パワーファンクション値の最適値は指数 b の逆数で、実用範囲は 1.0〜1.6。単一の値では全域を直線化できない。

CAD は ELSD と同じく噴霧・乾燥までは共通ですが、乾燥後の粒子に電荷を与え、その電流を測ります。粒子1個あたりの平均電荷は、粒子径 10〜1000 nm の広い範囲で D^1.1、つまりほぼ直線的に増えます。ELSD の D⁶〜D² のような劇的な切り替わりが無い。

その結果、指数 b は動作範囲を通じておおむね 2/3 前後で安定します。ELSD の感度が低濃度側で急落するのは、粒子径 50 nm 以下で散乱効率が指数関数的に落ちるためで、CAD で同じことが起きるのは 10 nm 以下からです。この差が、低濃度側の性能差の物理的な理由です。

仕様書に載っている数字

Thermo Vanquish Charged Aerosol Detector(P シリーズ)の仕様です。

項目 HP FP
移動相流量 0.01〜2.0 mL/min 0.2〜2.0 mL/min
蒸発温度 室温(OFF)または 10〜100 ℃ を 0.1 K 刻み(室温+5 K 以上) 室温(OFF)または 35 / 50 / 70 ℃
最大データ収集速度 200 Hz 100 Hz
チャンネル数 4(異なる power value を同時記録 1
フィルタ時定数 0.1, 0.2, 0.5, 1.0, 2.0, 3.6, 5.0, 10.0 s 同左
ガス 窒素(推奨)または圧縮空気、4.83〜5.52 bar、≤4 L/min 同左
順相対応 ハード改造なしで可 同左

旧モデル(H / F)の仕様書には「Dynamic range: Up to 4 orders of magnitude」と明記されています。冒頭に書いたとおり、これは直線範囲ではありません。

PFV(パワーファンクション値)とは何か

CAD の応答は Response = a(m_inj)^b という冪乗則で書けます。b = 1 なら直線、b < 1 なら sub-linear(上に凸)、b > 1 なら supra-linear(下に凸)。

CAD には、この指数に掛け算をするデータ収集パラメータが用意されています。それが PFV です。

Signal Output = (Default Signal)^PFV / 500^(PFV−1.0)

最適な PFV は、その方法で観測された b の逆数(1/b)です。b = 0.8 なら PFV = 1.25 にすれば、指数が 0.8 × 1.25 = 1.0 になって直線化される。実務上の推奨は次のとおりです。

  • 不揮発性成分に対する実用的な PFV は 1.0〜1.6
  • 半揮発性成分(supra-linear な応答で見分けられる)には PFV 1.0 以外を使うことは推奨されない
  • 不揮発性成分どうしは応答曲線の形が似ているので、最適 PFV は同じ方法内のすべての不揮発性成分に適用できる

そして最も重要な但し書きが、同じ資料にあります。

Since the value of b with CAD is not constant but changes gradually with analyte amount, a single PFV cannot perfectly linearize response and is not sufficient to approximately linearize the full dynamic range. (CAD の b は一定ではなく試料量とともに緩やかに変化するので、単一の PFV では応答を完全には直線化できず、全ダイナミックレンジを近似的に直線化するにも不十分である)

PFV は「準直線な 2 桁の窓を、どこにずらすか」を決めるパラメータであって、4 桁を直線にする魔法ではありません。前掲の P シリーズが「4 チャンネルで異なる power value を同時記録できる」と謳っているのは、この窓を1回の分析で複数持てるという意味です。

なお、蒸発温度を上げるとより多くの成分が半揮発性としてふるまうようになる、とも書かれています。感度を上げようとして温度を上げると、応答曲線の形が変わってしまう。温度は感度だけでなく直線性のパラメータでもあります。

CAD の PFV 最適化は査読論文でも扱われており(Pawellek ら, J. Chromatogr. A 2021)、CAD が「公定書のモノグラフにも採用されるようになった」ことが背景にあると述べられています。実際、キノロン系抗菌薬の不純物分析では HPLC-DAD-CAD で PFV を最適化し、0.5〜300 µg/mL の範囲で r > 0.999、回収率 98.22〜101.91%(CAD)、日内・日間精度の RSD < 2.5% が報告されています(Gao ら, J. Chromatogr. A 2023)。

9. CAD と ELSD をどちらにするか ― 実測データで見る

CAD と ELSD の検出限界・定量限界の実測比較を示した図解
図解:査読論文の実測(リーシュマニア膜リン脂質)で、LOD は ELSD 71〜1195 ng に対し CAD 15〜249 ng、LOQ は ELSD 215〜3622 ng に対し CAD 45〜707 ng。ただし真度は両者ほぼ同等だった。

メーカー資料は自社に有利な比較になりがちなので、査読論文から先に見ます。

Ramos ら(J. Chromatogr. A 2008)は、Leishmania(リーシュマニア原虫)の膜リン脂質 10 種類を順相 HPLC で分離し、同じ試料・同じカラムで CAD と ELSD を比較しました。

ELSD CAD
検出限界(LOD) 71〜1195 ng 15〜249 ng
定量限界(LOQ) 215〜3622 ng 45〜707 ng
真度 62.8〜115.8% 58.4〜110.5%

LOD で 4〜5 倍、LOQ で 5 倍前後、CAD が優れています。同論文は、CAD の応答は 30 ng〜20.00 µg の注入量に対して決定係数 R² = 0.993〜0.998 の直線モデルでも記述できたと報告しています。

一方で真度は両者ほぼ同等(むしろ下限は CAD のほうが低い)で、ここに差はありません。CAD の優位は「低濃度側でシグナルが消えないこと」に集中している、と読むのが正確です。

メーカーの比較(Thermo、Corona Veo CAD 対 Sedex 90LT ELSD)も、同じ方向を向いています。ただしこちらは自社比較である点を明記したうえで:

項目 CAD ELSD
ダイナミックレンジ 約 4 桁 各減衰設定で 2 桁程度
化合物間の応答ばらつき(FIA、不揮発性成分) 10.7% RSD より大きい
面積精度・200 ng(n=7) 0.85〜1.58% 2.42〜7.80%
面積精度・20 ng(n=7) 1.64〜13.2% 11.5〜19.9%
流量レンジ ネブライザ 1 個で 0.010〜2.0 mL/min 5 種類のネブライザが必要

注目すべきは低濃度側(20 ng)の精度です。CAD は 1.64〜13.2%、ELSD は 11.5〜19.9%。平均すれば CAD が良いのですが、化合物によってはナプロキセンで CAD 13.2% 対 ELSD 13.9%、プロゲステロンで 11.1% 対 11.9% と、ほとんど差がありません。「CAD なら低濃度でも精度が出る」と一般化するのは行き過ぎです。

流量レンジの差は運用コストに直結します。Corona Veo RS は 0.010〜2.0 mL/min をネブライザ 1 個でカバーしますが、Sedex 90LT は 0.005〜0.04 / 0.040〜1.2 / 0.200〜2.5 / 1.0〜4.0 / 0.200〜1.4(UHPLC)と5 種類のネブライザを使い分けます。メソッドの流量が変わるたびに部品交換が要る、ということです。

10. グラジエントで応答が揃わない ― インバースグラジエントという対処

グラジエントでの応答不均一とインバースグラジエントの効果を示した図解
図解:溶媒組成が変わると噴霧効率が変わり、応答が揃わない。インバースグラジエントで応答の RSD は 28% から 18% へ改善するが、ゼロにはならない。有機比を上げるモードは溶媒消費がほぼ 2 倍になる。

ELSD も CAD も、グラジエント溶離では厄介な問題を抱えます。移動相の有機溶媒比率が変わると、噴霧される液滴の大きさが変わり、検出器に届く効率が変わるからです。逆相 LC なら、初期の高水系で溶出する成分は応答が低く、後半の高有機系で溶出する成分は応答が高く出ます。

Thermo の技術資料は、UV と CAD の両方でこの問題が起きることをはっきり書いています。

However, neither the UV detector nor the CAD show uniform response. (しかし UV 検出器も CAD も、均一な応答を示さない)

対処がインバースグラジエントです。分析用グラジエントとちょうど反転したグラジエントを 2 台目のポンプで作り、カラム出口で合流させて、検出器に入る溶媒組成を常に一定に保ちます。

効果は実測されています。サッカリン・セファレキシン・ブメタニド・コルチゾンという構造の異なる 4 成分で——

  • インバースグラジエントなし:応答の RSD 28%
  • インバースグラジエントあり(Keep solvent composition モード):応答の RSD 18%

28% → 18%。改善はしますが、ゼロにはなりません。同資料は、残る差の要因として標準品の純度、吸湿、吸湿性・帯電性のある化合物(セファレキシンなど)の秤量、塩の形成、カラム容量の計算誤差を挙げています。「単一標準品で全成分を定量する(universal calibration)」という CAD の売り文句は、この 18% を許容できる用途でのみ成り立ちます。

インバースグラジエントには 3 つのモードがあり、それぞれ性格が違います。

モード ねらい 代償
Keep solvent composition 応答の均一化。感度が足りているならこれが第一選択 なし
Maximize %B 有機比を高く保って感度と S/N を最大化 有機溶媒の消費量がほぼ 2 倍。廃液とコストが増える
Minimize flow 合流後の流量が 2.0 mL/min を超えて CAD を浸水・破損させるのを防ぐ 応答・S/N は Keep 相当

Maximize %B について、資料は重要な注意も添えています。

It must also be mentioned that detection limits do not automatically increase with a higher organic content, since a higher mass transport is also obtained for impurities, which can lead to increased baseline noise. (有機比を上げれば検出限界が自動的に良くなるわけではないことも述べておく必要がある。不純物についても輸送量が増え、ベースラインノイズの増大につながりうるからだ)

ここでも「シグナルが増える」と「検出限界が良くなる」は別の話です。

なお、UV 検出器でもグラジエント中に屈折率変化に由来する見かけの吸光度が生じることが知られており、この現象を記述する G-index という指標が提案されています(Kraiczek ら, Talanta 2018)。UV のベースラインがグラジエントでうねるのは、必ずしも溶媒の吸収だけが原因ではありません。

11. データ収集速度・セル容量・直列接続 ― UHPLC で効いてくる制約

データ収集速度とピーク分散の制約を示した図解
図解:最大データレートは DAD 240 Hz、CAD 200 Hz、ELSD 80 Hz、蛍光と RI は 74 Hz。マイクロLC の実測でピーク分散は DAD 0.025 µL² に対し ELSD 0.117 µL²。効いていたのはセル容量そのものではなく、流路の内径が途中で大きくなることだった。

データ収集速度

ピークの形を正しく再現するには、ピーク 1 本あたり十分な数のデータ点が要ります。ここで各検出器の最大データレートが制約になります。

検出器 最大データレート
Agilent 1290 Infinity II DAD(G7117B) 240 Hz
Thermo Vanquish CAD HP 200 Hz
Thermo Vanquish CAD FP 100 Hz
Agilent 1260 Infinity II ELSD 80 Hz
Waters ACQUITY UPLC TUV 80 points/s
Agilent 1260 Infinity II FLD(G7121A) 74 Hz
Agilent 1260 Infinity II RID(G7162A) 74 Hz

半値幅 1 秒のピークに 20 点を割り当てるなら 20 Hz あれば足ります。しかし UHPLC で半値幅 0.5 秒、ベース幅 2 秒のピークになると、必要なレートは一気に上がります。FLD と RID の 74 Hz は、DAD の 240 Hz に対して 3 分の 1 以下である、という事実は選定時に効きます。

同時にフィルタ時定数の設定も効きます。ノイズを下げようと時定数を長くすると、ピークは低く広くテーリングします。3節で見たとおり、ノイズ仕様はこの時定数の設定込みの数字です。カタログのノイズが小さい条件が、実際に使える条件とは限りません。

セル容量だけでは決まらない

「セル容量が小さければピークが広がらない」は、直感的ですが不正確です。Werres らの実測(マイクロLC、0.3 mm 内径カラム、ナプロキセン k=2、流量 2〜25 µL/min、n=3)が、その理由を示しています。

検出器 セル/噴霧部 カラム後の総容量 25 µL/min でのピーク分散 σ²
DAD 1(Knauer AZURA、光導波路) 6 nL 202 nL 0.025 µL²
DAD 2(Agilent 1260 DAD WR) 80 nL 865 nL DAD 1 比で分散 +38%(DAD 1 側が 38% 小さい)
FLD(NanoFLD) 117 nL 1169 nL 低流量比 +290%
ESI-MS(エミッタ内径 65 µm) 713 nL 1125 nL 低流量比 +225%
ELSD(Knauer 85LT) 2570 nL 3060 nL 0.117 µL²

最良の DAD 1(0.025 µL²)に対して、ELSD は 0.117 µL²。約 4.7 倍の分散です。理論段高さで見ても、DAD 1 は H_min = 4.9 µm を達成しましたが、ELSD は H_min に到達できませんでした(ESI-MS のエミッタ内径 50・65 µm も同様)。

そして同論文の結論が、この節の要点です。

The assumption that only the cell volume of concentration-dependent detectors needs to be considered when determining the efficiency is a misconception.there is no linear relationship between band broadening and extra-post-column volume. (効率を決めるのは濃度感応型検出器のセル容量だけだ、という前提は誤解である。…バンド広がりとカラム後容量の間に直線的な関係は無い)

実際に効いていたのは、流路の内径が途中で大きくなることでした。カラム出口からの転送キャピラリ(内径 50 µm)の後で内径が 65 µm(MS エミッタ)や 500 µm(FLD の T ピース)に広がる構成で、高流量時に分散が跳ね上がった。逆に内径を小さくする方向の変化は悪影響を与えなかったと報告されています。

同じ方向の結果は LC-MS でも出ています(Handlovic ら, ACS Meas. Sci. Au 2025)。5 台の LC-MS システムのカラム外容量を標準構成の 26.4〜78.1 µL から 9.57〜18.7 µL に減らしたところ、最大 MS ピーク強度が 1.8〜3.8 倍検出された分子特徴の数が最大 7.5 倍になりました。同論文は「カラム外の体積分散と流量の関係から、高流量では MS 検出器の広がりが小容量 UV 検出器よりもずっと大きくなる」と述べています。

直列接続の制約

複数の検出器を直列につなぐときは、次の 3 つを順に確認します。

  1. 破壊型は最後。 ELSD・CAD・MS は試料を消費します。UV/PDA・蛍光・RI と併用するなら、非破壊型を先に置くか、手前でスプリットします。
  2. 上流セルの耐圧を超えないこと。 下流に配管や検出器を足すと背圧が上がります。RI セルは 5 bar、Waters TUV セルは 1000 psi、Agilent DAD セルは連続 70 bar・瞬間 150 bar。一番弱いセルが全体の上限を決めます。
  3. 分散は足し算で効く。 上の表のとおり、後段の検出器につながる配管が前段のピークを広げます。

12. 目的別の選択と、導入前に確認すること

目的別の検出器選択と導入前の確認事項を示した図解
図解:発色団があれば UV/PDA、蛍光があれば蛍光検出器、発色団が無く等溶媒なら RI、グラジエントが要るなら CAD。導入前は「ノイズ仕様の時定数」と「ダイナミックレンジと直線範囲の違い」を必ず確認する。
状況 第一選択 理由(該当節)
発色団がある。定量が主目的 UV/PDA 安価・堅牢・直線範囲が広い・非破壊・公定法実績(2・3節)
ピーク純度やスペクトルも見たい PDA/DAD 波長を後から選び直せる(3節)
蛍光を持つ/誘導体化できる。マトリックスが重い 蛍光検出器 選択性が高い。ただし 74 Hz とバンド幅 20 nm 固定の制約(4節)
発色団が無い。等溶媒でよい。高濃度 RI 古典的だが確実。ただし 5 bar・グラジエント不可(6節)
発色団が無い。グラジエントが要る CAD(次点 ELSD) 低濃度側で信号が消えない。応答が構造に依存しにくい(8・9節)
発色団が無い。不純物試験で 3〜4 桁測る CAD + PFV 最適化、必要なら複数チャンネル 単一 PFV では全域を直線化できない(8節)
標準品が無い成分を概算したい CAD + インバースグラジエント 応答 RSD 28% → 18%。ゼロにはならない(10節)
構造を知りたい/超微量 MS 別軸の選定。イオン源の選び方

導入前に確認すべきこと

  1. ノイズ仕様の測定条件を揃えて比べる。 時定数・波長・スリット幅・セル・規格(ASTM E1657)。Agilent は TC 2 s、Waters は TC 1.0 s で書いています(3節)。
  2. 「ダイナミックレンジ」と「直線範囲」を区別する。 CAD は 4 桁と 1.5〜2 桁が併存します(8節)。
  3. 非線形検出器の LOD は検量線で出す。 高濃度 1 点からの外挿は実測と 5〜13 倍ずれます(冒頭・9節)。
  4. カタログの「S/N」の定義を確認する。 同じ蛍光検出器が「>500」と「>3000」を併記します(4節)。
  5. 自分の流量で使えるか。 ELSD は流量レンジごとにネブライザが要ることがあります。CAD の FP は 0.2 mL/min から、HP は 0.01 mL/min から(8・9節)。
  6. 最大データレートが自分のピーク幅に足りるか。 FLD と RID は 74 Hz です(11節)。
  7. セルの耐圧と直列順序。 一番弱いセル(多くは RI の 5 bar)が全体の上限になります(11節)。
  8. エアロゾル検出器なら、目的成分が揮発しないか。 蒸発温度を上げると半揮発性としてふるまう成分が増え、応答曲線の形まで変わります(8節)。

まとめ

  • 「ダイナミックレンジ 4 桁」は「直線範囲 4 桁」ではない。 CAD の仕様書は 4 桁と書き、同社の技術資料は準直線が 1.5〜2 桁だと書いている。定量に必要なのは後者。
  • 非線形検出器の検出限界を、高濃度標準1点から外挿してはいけない。 メーカー自身が "totally meaningless and misleading" と書いており、実測では外挿値と実測値が 5〜13 倍ずれた。
  • ノイズ仕様は横並び比較できない。 Agilent の DAD は TC 2 s、Waters の TUV は TC 1.0 s。ドリフトに至っては Waters は「AU/hour/」と次元が違う。
  • 同じ蛍光検出器に「Raman S/N >500」と「>3000」が併記される。 違いはノイズを信号側で測るか暗信号側で測るかだけ。定義を確認せずに他社と比べても意味がない。
  • 光路長を伸ばすと感度は上がるが、分散も増える。 Agilent の 60 mm セルは 1 cm あたりノイズが 1/5 になる代わりに σV が 1.0 → 4.0 µL。マイクロLC の実測では、信号が 8 分の 1 の小容量セルでも S/N の差は 1.5 倍にとどまり、分散は 38% 小さかった。
  • ELSD のシグモイド応答は散乱領域の切り替わりから来る。 指数 b がレイリー 6/3 → ミー 4/3 → 屈折・反射 2/3 と変わるため、低濃度側で信号が急に消える(62 ng で S/N 108 → 8 ng で S/N 2)。減衰設定ごとに使えるのは 2 桁程度。
  • CAD が低濃度で強いのは物理的な理由がある。 散乱効率が落ちるのは粒子径 50 nm 以下、CAD の電荷が落ちるのは 10 nm 以下。査読論文の実測でも LOD で 4〜5 倍差(Ramos ら 2008)。ただし真度と低濃度の精度は化合物によってほぼ同等。
  • PFV は「準直線な窓をずらす」パラメータであって、全域を直線化する魔法ではない。最適 PFV = 1/b、実用範囲は 1.0〜1.6、半揮発性成分には使わない。
  • インバースグラジエントでも応答 RSD は 28% → 18% まで。ゼロにはならない。 有機比を上げる Maximize %B は溶媒消費がほぼ 2 倍になり、しかも不純物も一緒に運ばれるので検出限界は自動的には良くならない。
  • セル容量だけでは効率は決まらない。 実測で効いたのは「流路の内径が途中で大きくなること」。内径を小さくする方向の変化は悪影響が無かった。

用語集

  • 濃度感応型検出器:セル内の濃度に比例した信号を出す検出器。UV/PDA・蛍光・RI。流量を上げるとピークが希釈されて面積が減る。
  • 質量流量感応型検出器:単位時間に入る質量に比例した信号を出す検出器。ELSD・CAD・MS。
  • ユニバーサル検出器:化合物の構造にあまり依存せず、そこに物質があることを検出する検出器。RI・ELSD・CAD。
  • PDA/DAD(フォトダイオードアレイ/ダイオードアレイ検出器):多数のフォトダイオードで全波長を同時に取得する UV 検出器。測定後に波長を選び直せ、ピーク純度の評価にも使える。
  • RI(示差屈折率検出器):移動相と溶質の屈折率差を測る。原理上グラジエントが使えず、セルの耐圧も低い。
  • ELSD(蒸発光散乱検出器):噴霧・蒸発させた後の粒子による散乱光を測る。応答はシグモイドで、ダイナミックレンジが狭い。
  • CAD(荷電化エアロゾル検出器):噴霧・蒸発させた後の粒子に電荷を与え、電流を測る。ELSD より低濃度側に強い。
  • PFV(パワーファンクション値):CAD の冪乗則応答の指数に掛ける係数。最適値は観測された指数 b の逆数。
  • インバースグラジエント:分析用グラジエントと反転したグラジエントを 2 台目のポンプで作り、検出器に入る溶媒組成を一定に保つ手法。エアロゾル検出器の応答均一化に使う。
  • 時定数(TC)/フィルタ:信号を平滑化するローパスフィルタの強さ。長くするとノイズは減るがピークが鈍る。ノイズ仕様は必ず時定数とセットで読む。
  • σV(分散に効く体積):フローセルがピークを広げる度合いを体積の標準偏差で表した値。セルの幾何容量とは別の量。
  • ASTM E1657:分光光度検出器の性能仕様に関する規格。ノイズ仕様の測定手順を定める。

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出典

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  2. D. Thomas, B. Bailey, M. Plante, I. Acworth「Charged Aerosol Detection and Evaporative Light Scattering Detection – Fundamental Differences Affecting Analytical Performance」Thermo Scientific Poster Note PN70990(2014)
  3. S. Grosse, T. Muellner, K. Lovejoy, I. Acworth, P. Gamache「Why use charged aerosol detection with inverse gradient?」Thermo Technical Note 73449 — https://documents.thermofisher.com/TFS-Assets/CMD/Technical-Notes/tn-73449-cad-inverse-gradient-tn73449-en.pdf
  4. Thermo Fisher Scientific「Vanquish Charged Aerosol Detector P」Product Specifications 003658
  5. Thermo Fisher Scientific「Vanquish Charged Aerosol Detectors」Product Specifications PS-71516
  6. Agilent Technologies「InfinityLab LC Series Specification Compendium」— 1290 Infinity II Diode Array Detector (G7117B) 性能仕様
  7. Agilent Technologies「InfinityLab LC Series Specification Compendium」— 1260 Infinity II Fluorescence Detector (G7121A) 性能仕様
  8. Agilent Technologies「InfinityLab LC Series Specification Compendium」— 1260 Infinity II Refractive Index Detector (G7162A) 性能仕様
  9. Agilent Technologies「InfinityLab LC Series Specification Compendium」— 1260 Infinity II Evaporative Light Scattering Detector (G4260B/G4261B) 性能仕様
  10. Waters Corporation「ACQUITY UPLC TUV Detector」Instrument Specifications
  11. R.G. Ramos, D. Libong, M. Rakotomanga, K. Gaudin, P.M. Loiseau, P. Chaminade「Comparison between charged aerosol detection and light scattering detection for the analysis of Leishmania membrane phospholipids」J. Chromatogr. A 2008;1209(1-2):88-94. doi:10.1016/j.chroma.2008.07.080(PMID 18823632)
  12. T. Werres, T.C. Schmidt, T. Teutenberg「Peak broadening caused by using different micro-liquid chromatography detectors」Anal. Bioanal. Chem. 2022;414(20):6107-6114. doi:10.1007/s00216-022-04170-9(PMID 35705858)/T. Werres 学位論文, Universität Duisburg-Essen(同章の実測値を参照)
  13. T.T. Handlovic, U. Dhaubhadel, O. Horáček, M. Novák, L. Nováková, D.W. Armstrong「Implications of Extra-column Effects for Targeted or Untargeted Microflow LC-MS」ACS Meas. Sci. Au 2025;5(3):332-344. doi:10.1021/acsmeasuresciau.5c00015(PMID 40556882)
  14. R. Pawellek, T. Muellner, P. Gamache, U. Holzgrabe「Power function setting in charged aerosol detection for the linearization of detector response - optimization strategies and their application」J. Chromatogr. A 2021;1637:461844. doi:10.1016/j.chroma.2020.461844(PMID 33445033)
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  16. K.G. Kraiczek, G.P. Rozing, R. Zengerle「G-index: A new metric to describe dynamic refractive index effects in HPLC absorbance detection」Talanta 2018;187:200-206. doi:10.1016/j.talanta.2018.04.101(PMID 29853036)
  17. 第十九改正日本薬局方 一般試験法〈2.00〉クロマトグラフィー総論(試験条件の調整に関する規定)
  18. 島津製作所「RID-20A」製品ページ(屈折率範囲 0.01〜5000 µRIU、光学系の二段温度制御)

制作メモ:本記事は NotebookLM のディープリサーチで 100 件のソースを収集し、そのうえで編集側が原典を開いて検証したうえで執筆しました。

採用しなかった数値を記録しておきます。(1) 取り込まれたソースのうち 1 件は URL を持たない AI 生成の合成文書("Comprehensive Guide to HPLC/UHPLC Detector Selection (2024-2026)")で、各検出器の直線範囲(UV 4〜5 桁、FLD 5〜6 桁、RI 3 桁など)の一覧表と検出限界レンジの表を丸ごとこれに帰属させてきたため、表ごと除外しました。本文の直線範囲の記述は、Agilent・Waters・Thermo の仕様書に実際に書かれている値(DAD の 2.0〜2.5 AU、CAD の「4 桁」と「準直線 1.5〜2 桁」、ELSD の減衰設定あたり 2 桁)だけで組み直しています。(2) 「蛍光検出器は UV より最大 1 万倍高感度」という記述は、上記合成文書の表から計算されたものだったため採用していません。(3) インバースグラジエントの「Maximize %B でシグナルが 2 倍」という記述は、原典(Thermo TN-73449)を確認したところ「有機溶媒の消費量がほぼ 2 倍」の誤りで、シグナルの倍率は記載されていませんでした。同資料はむしろ「有機比を上げても検出限界は自動的には良くならない」と注記しています。(4) USP〈1058〉が波長正確性 ±2 nm・ノイズ <1 mAU・ドリフト <5 mAU/h を要求している、という記述も確認できませんでした。これらの数値は公定書の規定ではなく合同ワーキンググループのコンセンサス文書に由来するもので、本文には書いていません。

一次資料の取得については、Agilent の PDF は curl でも WebFetch でも 403 が返るため、仕様書の該当章が公開されているミラー(sim-gmbh.de)から取得しました。Werres らの査読論文は有料ですが、同じ内容が著者の学位論文(Universität Duisburg-Essen 公開)に章として収録されており、そちらで表と実測値を確認しています。書誌情報は PubMed(NCBI E-utilities)と Crossref API で確定しました。