残留溶媒分析の実務 ― ICH Q3C(R9)がJP19〈2.46〉に入り、乾燥減量の使い方が変わった【2026年版】
クロマトグラフィー

残留溶媒分析の実務 ― ICH Q3C(R9)がJP19〈2.46〉に入り、乾燥減量の使い方が変わった【2026年版】

第十九改正日本薬局方(JP19)で一般試験法〈2.46 残留溶媒〉が改正された。中身は ICH Q3C(R9)の国内実装で、変わったのは「分析方法」のたった数十文字――クラス3の溶媒しか ないときに乾燥減量のような非特異的方法を使う条件が明確化され、バリデーションで 溶媒の揮発性の影響を考慮することが求められるようになった。本記事では条文の差分を原文で示し、 そのうえで残留溶媒分析の全体像――3つのクラスと限度値、オプション1と2、ヘッドスペースGCの 標準条件、操作法A/B/Cの使い分け、そしてヘッドスペース法が効かない7つの溶媒――を実務の順に整理する。

残留溶媒は、医薬品の品質管理のなかでも地味な試験です。原薬の製造で使った溶媒が製品に残っていないかを確かめるだけ――しかしその「だけ」の裏に、毒性クラスごとの限度値、オプション1と2の使い分け、ヘッドスペースGCの標準条件、そして乾燥減量で済ませてよい場合とよくない場合の線引きがあります。

第十九改正日本薬局方(JP19)で、この最後の線引きが変わりました。 改正されたのは数十文字ですが、クラス3の溶媒だけを乾燥減量で管理してきたラボには直接効きます。

本記事は、まず条文の差分を原文で示し、そのうえで残留溶媒分析の全体像を実務の順に整理します。

この記事の読み方:1〜2節は改正点そのもので、規制対応の担当者向けの事実確認です。3〜5節は残留溶媒管理の枠組みを入門者にも分かるように噛み砕きます。6〜9節は現場の分析者向けに、GC条件・システム適合性・例外まで踏み込みます。専門用語は初出時に短く補足します。

注意:本記事は条文の要点解説です。実運用にあたっては必ず告示された日本薬局方の原文および該当通知をご確認ください。

1. JP19で何が変わったのか ― ICH Q3C(R9)の国内実装

ICH Q3C(R9)から国内通知を経てJP19に反映された経緯と条文の前後比較を示す図解
図解:①ICH Q3C(R9)が2024年1月24日にStep 4(改訂は section 3.4 のみ)→ ②令和6年4月15日 医薬薬審発第415001号で国内通知 → ③JP19〈2.46〉として局方本体へ。条文は「クラス3のみなら非特異的方法を使用可」から「適切にバリデートされていれば使用可、ただし揮発性が測定に及ぼす影響を考慮」へ。

JP19は令和8年(2026年)4月10日に告示・同日施行されました(厚生労働省告示第193号)。改正された一般試験法19項目のなかに 〈2.46 残留溶媒〉が含まれます。

PMDAの「第十九改正日本薬局方の概要」は、改正内容をこう記しています。

「I. 残留溶媒の管理 3. 分析方法」において、クラス3の溶媒しか存在しない場合に乾燥減量などの非特異的方法を用いる際の留意事項を追記する。また、ICH Q3C (R9)ガイドラインを反映し、バリデーションに関する記載を改正

この改正には、はっきりした系譜があります。

  1. ICH Q3C(R9)2024年1月24日にStep 4 に到達。Minor Revision Procedure による改訂で、変更されたのは section 3.4 Analytical Procedures です。
  2. 国内では 令和6年(2024年)4月15日、医薬薬審発第415001号「医薬品の残留溶媒ガイドラインの改正について」として通知されました。改正箇所は3「一般原則」の(4)「分析方法」です。
  3. それが JP19で局方本体に取り込まれた、という流れです。

条文の差分を示します。

改正前

残留溶媒の測定法としては、ガスクロマトグラフィーのようなクロマトグラフィーの手法が一般に用いられる。本試験法又は他の適切な方法に従って測定する。クラス3の溶媒しか存在しない場合には、乾燥減量などの非特異的方法を用いてもよい。残留溶媒の分析法は、適切にバリデートされていなければならない。

改正後(JP19)

残留溶媒の測定法としては、ガスクロマトグラフィーのようなクロマトグラフィーの手法が一般に用いられる。本試験法又は他の適切な方法に従って測定する。残留溶媒の分析法は、適切にバリデートされていなければならない。クラス3の溶媒しか存在しない場合には、適切にバリデートされているのであれば乾燥減量などの非特異的方法を用いてもよいが、バリデーションに際しては溶媒の揮発性が測定に及ぼす影響を考慮する必要がある。

変わった点は3つです。

  • 文の順序が入れ替わり、「適切にバリデートされていなければならない」が先に来た。バリデーション要求が前提として明示されました。
  • 非特異的方法の使用に 「適切にバリデートされているのであれば」という条件が明示的に付いた
  • 「バリデーションに際しては溶媒の揮発性が測定に及ぼす影響を考慮する必要がある」が新規に追加された。

ICH Q3C(R9)の原文と照らすと、対応は一対一です。

If only Class 3 solvents are present, a non-specific method such as loss on drying may be used, if the method is properly validated. The impact of solvent volatility on the test method should be considered in the validation.

なお Q3C(R9) は、残留溶媒分析法のバリデーションについて ICH Q2(分析法バリデーション)の最新版に適合すべきとも述べています。

2. 「揮発性の影響を考慮する」の実務的な意味

乾燥減量が非特異的であることと0.5%の分岐点を示す図解
図解:乾燥減量は非特異的で、水分と溶媒を区別できない。沸点の高い溶媒は飛びきらず過小評価になる。乾燥減量値が0.5%を超える場合や他の溶媒が共存する場合は、本試験法での同定・定量へ移る。

追加された一文は抽象的ですが、乾燥減量(loss on drying、LOD)で残留溶媒を管理しているラボにとっては具体的な宿題です。

乾燥減量は「加熱して減った質量」を測る非特異的な方法です。何が減ったのかを区別しません。ここに揮発性が絡むと、次のようなズレが生じ得ます。

  • 沸点の高い溶媒は飛びきらない。 乾燥条件(温度・時間・減圧の有無)で溶媒が完全に揮発しなければ、残留量を過小評価します。クラス3にも 1-ペンタノール、ジメチルスルホキシド、酢酸のように比較的沸点の高いものが含まれます。
  • 水分と区別できない。 減った質量には水も含まれます。溶媒だけを見たいのに、水の寄与が混ざります。
  • 逆に飛びすぎる場合もある。 結晶水や他の揮発成分まで失われれば過大評価になります。

つまり 「うちはクラス3だけだから乾燥減量でよい」で止めず、その乾燥条件で対象溶媒が実際に定量的に揮発することを、バリデーションで示す必要があります。

JP19の〈2.46〉は、定量法の側でもこの線引きを明記しています。

クラス3の溶媒のみが残留している場合は、乾燥減量試験法〈2.41〉を用いることができる。ただし、乾燥減量値が0.5%を超える場合や、その他の溶媒が共存する場合には、本試験法又は他の適切な方法に従って同定し、必要な場合には定量する

0.5%が分岐点です。ここを超えたら、あるいはクラス1・2の溶媒が混じる可能性があれば、乾燥減量では終われません。

3. 3つのクラスと限度値の考え方

残留溶媒のリスクに基づく3クラス分類を示す図解
図解:クラス1は使用を避けるべき溶媒(ベンゼン2 ppmなど5物質)、クラス2は残留量を規制すべき溶媒でPDE(1日曝露許容量)に基づく限度値、クラス3は低毒性で50 mg/day(オプション1では5000 ppm=0.5%)。

残留溶媒管理の枠組みを押さえます。〈2.46〉は溶媒をヒトの健康に及ぼし得るリスクに応じて3クラスに分類します。

クラス1(医薬品の製造において使用を避けるべき溶媒) ― 発がん性が知られる/強く疑われる溶媒、環境に有害な溶媒。5物質のみです。

溶媒 濃度限度値(ppm) 理由
ベンゼン 2 発がん性
四塩化炭素 4 毒性および環境への有害性
1,2-ジクロロエタン 5 毒性
1,1-ジクロロエテン 8 毒性
1,1,1-トリクロロエタン 1500 環境への有害性

クラス2(残留量を規制すべき溶媒) ― 動物実験で発がん性を示した溶媒、神経毒性や催奇形性など不可逆的な毒性を示した溶媒など。PDE(Permitted Daily Exposure、1日曝露許容量)と濃度限度値が定められています。代表例を挙げます。

溶媒 PDE(mg/day) 濃度限度値(ppm)
メタノール 30.0 3000
アセトニトリル 4.1 410
ジクロロメタン 6.0 600
クロロホルム 0.6 60
テトラヒドロフラン 7.2 720
トルエン 8.9 890
ヘキサン 2.9 290
N,N-ジメチルホルムアミド 8.8 880
メチルイソブチルケトン 45 4500
t-ブチルアルコール 35 3500
シクロペンチルメチルエーテル 15.0 1500

PDE値は0.1 mg/dayの単位まで、濃度限度値は10 ppmの単位まで示されています。条文は「表に示された値は、測定するときに必要な分析の精度を反映するものではない。精度は分析法のバリデーションの際に決定されるべき」と釘を刺しています。

クラス3(低毒性の溶媒) ― ヒトに対して低毒性と考えられ、健康上の理由からは曝露限度値の設定が不要な溶媒。50 mg/day以上のPDE値を持ちます。エタノール、アセトン、酢酸エチル、2-プロパノール、ヘプタン、2-メチルテトラヒドロフランなど27溶媒です。

50 mg/day=オプション1では5000 ppm、すなわち0.5%に相当します。これ以下なら妥当性の理由を示さずに許容されます。第2節の0.5%はここから来ています。

さらに表2.46-4「適当な毒性データが見当たらない溶媒」という第4のカテゴリもあります(イソオクタン、イソプロピルエーテル、石油エーテル、トリフルオロ酢酸など9物質)。PDE算出の基礎となる毒性データがないため、残留する場合はその妥当性の理由を提示する必要があります。

4. オプション1とオプション2 ― 限度値の決め方

オプション1とオプション2の違いを示す図解
図解:オプション1は1日服用量を10 gと仮定し、濃度限度値(ppm)=1000×PDE/服用量 で一律に決める。全成分がこの限度値に適合すれば比率を自由に組み合わせられる。オプション2は実際の1日服用量からPDEを逆算する方法で、オプション1では厳しい場合に検討する。

クラス2の限度値設定には2つのオプションがあります。ここは実務で迷いやすい部分です。

オプション11日服用量を10 gと仮定して、濃度限度値を一律に決めます。

濃度限度値(ppm) = 1000 × PDE / 服用量

PDEはmg/day、服用量はg/dayです。この濃度限度値は全ての原薬・添加剤・製剤で許容されます。

オプション1の強みは組み合わせ自由な点です。条文いわく、処方中の全ての原薬・添加剤がオプション1の限度値に適合していれば、これらの成分はどのような比率ででも使用できます(1日服用量が10 gを超えなければ)。1日服用量が不明だったり一定しなかったりする場合にも使えます。

オプション2は、実際の1日服用量に基づいてPDEから逆算する方法です。製剤の服用量が確定していて、オプション1では厳しすぎる場合に使います。

実務上の判断はこうなります。まずオプション1で通るかを見る。通ればそれで終わり――限度値の根拠を説明する手間がありません。通らない場合にオプション2を検討する、という順序です。

5. 何をどこまで調べればよいか

クラス構成ごとに必要な情報のレベルと「存在すると考えられる溶媒」の定義を示す図解
図解:「存在すると考えられる溶媒」=最終工程で使用した溶媒+前工程で使用し常に除けるとは限らない溶媒。クラス3のみなら乾燥減量0.5%以下、クラス2のみなら全てオプション1の限度値以下、両者があれば双方、クラス1があれば同定・定量が必須。

すべての溶媒を毎回定量する必要はありません。〈2.46〉は「情報として必要な残留溶媒のレベル」という節で、必要な情報の例を示しています。

存在すると考えられる溶媒 必要な情報
クラス3のみ 乾燥減量が 0.5%以下であること
クラス2のみ 溶媒の名称と、それらが全てオプション1の限度値以下であること
クラス2+クラス3 クラス2がオプション1の限度値以下、かつクラス3が0.5%以下であること
クラス1が存在 それらの溶媒を同定し、定量する必要がある

限度値を超える場合は、その溶媒を同定・定量します。

ここで重要なのが「存在すると考えられる」の定義です。条文は明確にしています。

「存在すると考えられる」という表現の対象は、製造の最終工程で使用された溶媒及び最終工程よりも前の工程で使用されたが、バリデートされた工程によっても常に除くことができるとは限らない溶媒である。

つまり最終工程の溶媒は当然として、前工程の溶媒も「必ず除ける」と示せなければ対象になります。ここを狭く解釈すると抜けが生じます。

試験対象の選び方にも規定があります。製剤に残留する溶媒は、製剤そのものを試験してもよいし、製剤の製造に用いた各成分の残留溶媒量から積算して計算してもかまいません。計算値が限度値以下なら製剤の試験は不要です。ただし計算値が限度値を超える場合、および製剤の製造工程で何らかの溶媒が用いられている場合は、製剤の試験が必要です。

なお限度値は全ての剤形・投与経路に適用されますが、短期間の投与(30日以下)や局所投与ではより高い残留量が許容され得るとされ、その妥当性はケースバイケースで判断されます。

6. 標準的な試験法 ― ヘッドスペースGCの条件

ヘッドスペースGCの標準条件とカラム昇温プロファイルを示す図解
図解:検出器はFID、カラムは長さ30 mで固定相は6%シアノプロピルフェニル-94%ジメチルシリコーンポリマー。カラム温度は40℃を20分保持 → 毎分10℃で昇温 → 240℃を20分保持。

〈2.46〉の定量法はヘッドスペースGCが基本です。バイアル内で試料を加熱し、気相に出てきた溶媒をGCに導入します。不揮発性のマトリックスをカラムに入れずに済むのが利点です。

水溶性試料の操作法Aの試験条件を示します。

項目 条件
検出器 水素炎イオン化検出器(FID)
カラム 内径0.32 mm(又は0.53 mm)、長さ30 mのフューズドシリカ管(又はワイドボア管)
固定相 6%シアノプロピルフェニル-94%ジメチルシリコーンポリマー、膜厚1.8 µm(又は3.0 µm)
カラム温度 40℃を20分保持 → 毎分10℃で240℃まで昇温 → 240℃を20分保持
注入口温度 140℃
検出器温度 250℃
キャリヤーガス 窒素又はヘリウム、流量約35 cm/秒
スプリット比 1:5(感度最適化のため適宜変更)

ヘッドスペース装置の操作条件は3通りが例示されています。

項目 条件1 条件2 条件3
バイアル内平衡温度(℃) 80 105 80
バイアル内平衡時間(分) 60 45 45
注入ライン温度(℃) 85 110 105
シリンジ温度(℃) 80〜90 105〜115 80〜90
加圧時間(秒) 60以上 60以上 60以上
試料注入量(mL) 1 1 1

条文は装置による差を前提にしています。「設定するパラメーターやその記載方法が装置により異なっている場合がある。これらを設定する場合には、システム適合性に適合することが確認できれば、使用する装置に応じて変更することが必要である」。試料注入量も、試験方法の基準を満たせば機器メーカーの推奨値に従ってよく、感度が得られれば1 mL未満も許容されます。

用語補足:ヘッドスペース法は、密閉容器内で試料を加熱し、液相と平衡に達した気相(ヘッドスペース)を採取してGCに導入する手法。揮発性成分だけを取り出せる。

7. 操作法A・B・Cの使い分けとシステム適合性

操作法A・B・Cの選択ルートとシステム適合性要件を示す図解
図解:未知の溶媒があれば操作法A(同定・定量)→ 操作法B(確認)。特定の溶媒が存在すると分かっていれば操作法C(定量)へ直行できる。システム適合性はアセトニトリルとジクロロメタンの分離度1.0以上、1,1,1-トリクロロエタンのSN比5以上、システム適合性試験用溶液のピークはSN比3以上。

〈2.46〉の定量法は段階的に組まれています。

  • 操作法A:どのような残留溶媒が存在し得るか情報がない場合に、同定と定量に用いる出発点。
  • 操作法B:Aで検出されたピークの確認(異なる極性のカラムで確かめる)。
  • 操作法C特定の溶媒が存在するという情報がある場合の定量。

条文は明快に述べています。特定の溶媒が存在すると分かっている場合は、操作法AとBは実施する必要がなく、操作法Cによって、あるいは他の適切な方法で定量すればよいのです。製造工程を把握していれば、いきなりCに行けます。

システム適合性の要件も具体的です(操作法A)。

  • 検出の確認:クラス1用標準液から得られる1,1,1-トリクロロエタンのピークのSN比は5以上。クラス1用システム適合性試験用溶液から得られるピークのSN比はそれぞれ3以上
  • システムの性能:クラス2用標準液A又はシステム適合性試験用溶液で、アセトニトリルとジクロロメタンのピークの分離度は1.0以上

SN比の計算法そのものはクロマトグラフィー総論〈2.00〉の規定に従います。JP19では〈2.00〉のSN比も同時に改正されているため、あわせて確認が必要です(JP19 クロマトグラフィー総論〈2.00〉)。

標準品は用途別に分かれています。

標準品 内容
クラス1 ベンゼン、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、1,1-ジクロロエテン、1,1,1-トリクロロエタンの混合溶液
クラス2A アセトニトリル、クロロベンゼン、クメン、シクロヘキサン、1,2-ジクロロエテン、ジクロロメタン、1,4-ジオキサン、メタノール、メチルシクロヘキサン、THF、トルエン、キシレンの混合溶液
クラス2B クロロホルム、1,2-ジメトキシエタン、ヘキサン、メチルブチルケトン、ニトロメタン、ピリジン、テトラリン、1,1,2-トリクロロエテンの混合溶液
クラス2C メチルイソブチルケトン
クラス2D t-ブチルアルコール
クラス2E シクロペンチルメチルエーテル
システム適合性試験用 アセトニトリル、cis-1,2-ジクロロエテン、ジクロロメタンの混合溶液

8. ヘッドスペースが効かない溶媒 ― 7つの例外

ヘッドスペース法では感度が出ない7つのクラス2溶媒を示す図解
図解:N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、2-エトキシエタノール、エチレングリコール、ホルムアミド、2-メトキシエタノール、N-メチルピロリドン(NMP)、スルホランの7溶媒は、沸点・極性が高く気相へ十分に出ないためヘッドスペース法では感度が低く分析が困難。その他のバリデートされた方法が必要になる。

ここは見落とすと事故になる箇所です。条文は明示しています。

クラス2の溶媒のうち、N,N-ジメチルアセトアミド、2-エトキシエタノール、エチレングリコール、ホルムアミド、2-メトキシエタノール、N-メチルピロリドン及びスルホランはヘッドスペース法では感度が低く分析が困難であるため、その他のバリデートされた方法で測定する必要がある

いずれも沸点が高く極性が高い溶媒で、加熱しても気相へ十分に出てこないため、ヘッドスペース法では感度が足りません。N-メチルピロリドン(NMP)やN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)は原薬合成でよく使われるため、実務で当たる可能性は低くありません。

さらに条文は、本試験法で溶媒として使用するN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)も、上記7溶媒とともにクラス2A〜2Eのどの標準品にも含まれていないため、必要に応じて適切なバリデートされた方法で分析する必要があると述べています。

対処の方向は、直接注入法(希釈した試料をそのままGCへ)や、溶媒を変えた抽出、あるいはLC系の手法です。いずれも「その他のバリデートされた方法」に該当するため、自前でバリデーションを組む前提になります。局方の標準法をなぞれば済む話ではない、と最初から見込んでおくべき箇所です。

9. 分析者の視点 ― 実務の勘所と落とし穴

残留溶媒分析の実務手順と代表的な落とし穴を対比した図解
図解:手順は「①製造工程からの洗い出し → ②オプション1で通るかの確認 → ③既知溶媒なら操作法Cを選択」。落とし穴は「クラス3=乾燥減量」での思考停止、沸点の高い溶媒の揮発性確認漏れ、NMP・DMAcをヘッドスペースで測ろうとすること、0.5%ラインの見落とし。

条文を運用手順に落とします。

  1. 製造工程から「存在すると考えられる溶媒」を洗い出す。 最終工程だけでなく、前工程で使われ「常に除けるとは限らない」溶媒も対象です。ここの網羅性が全ての前提になります。
  2. クラス分けし、必要な情報のレベルを決める。 クラス3のみなら乾燥減量0.5%以下、クラス2があればオプション1の限度値、クラス1があれば同定・定量が必要です。
  3. オプション1で通るかをまず見る。 通れば限度値の根拠説明が要りません。
  4. 試験対象を決める。 製剤そのものか、各成分からの積算計算か。製剤の製造工程で溶媒を使っているなら製剤の試験は必須です。
  5. 操作法を選ぶ。 溶媒が特定できているなら操作法Cから入ってよい。未知ならA→Bで同定します。
  6. ヘッドスペースの7溶媒に当たっていないか確認する。 当たっていれば別法の開発とバリデーションが必要です。
  7. 乾燥減量で済ませる場合は、揮発性の影響を含めてバリデートする。 これがJP19の改正点です。

よくある落とし穴を挙げます。

  • 「クラス3だけだから乾燥減量」で思考停止する。 JP19以降は、その乾燥条件で対象溶媒が定量的に揮発することを示す必要があります。沸点の高いクラス3溶媒ほど危ない。
  • 0.5%のラインを見落とす。 乾燥減量値が0.5%を超えたら、あるいは他の溶媒が共存したら、本試験法へ移らなければなりません。
  • NMP・DMAcをヘッドスペースで測ろうとする。 感度が出ずに苦労します。最初から別法を計画すべきです。
  • 前工程の溶媒を対象から外す。 「バリデートされた工程で除ける」と言い切れるかが判断基準です。
  • 装置条件を局方どおりに固定してしまう。 条文自身が「システム適合性に適合すれば装置に応じて変更することが必要」と述べています。むしろ合わせ込むべきです。
  • 表2.46-4の溶媒を見落とす。 毒性データがない溶媒(イソプロピルエーテル、石油エーテルなど)は、残留するなら妥当性の説明が要ります。

規制対応という点では、PFAS分析の実務ガイドの告示法運用や、JP19 クロマトグラフィー総論〈2.00〉の条件調整と同じ構造です。条文は「やってはいけないこと」だけでなく「やってよい条件」も書いている――そこを読めているかどうかで、実務の自由度が変わります。

まとめ

残留溶媒分析の3つの要点をまとめた図解
図解:①JP19〈2.46〉改正はICH Q3C(R9)の国内実装(2024年1月24日 Step 4 / 令和6年4月15日 医薬薬審発第415001号)②乾燥減量など非特異的方法は「揮発性が測定に及ぼす影響を考慮」が必須化、0.5%が分岐点 ③標準はヘッドスペースGCだがNMP・DMAcなど7溶媒は感度が出ず別法のバリデーションが必要。
  • JP19〈2.46〉の改正はICH Q3C(R9)の国内実装。 Q3C(R9)は2024年1月24日にStep 4(Minor Revision、変更は section 3.4 Analytical Procedures)、国内は令和6年4月15日 医薬薬審発第415001号で通知され、JP19で局方本体に入りました。
  • 変わったのは乾燥減量の使い方。 「クラス3のみなら乾燥減量でよい」から、「適切にバリデートされているのであれば用いてよいが、バリデーションに際して溶媒の揮発性が測定に及ぼす影響を考慮する必要がある」へ。沸点の高いクラス3溶媒を乾燥減量で管理しているなら、条件の妥当性を示す必要があります。0.5%を超えたら本試験法へ
  • 枠組みは3クラス+オプション。 クラス1は回避(ベンゼン2 ppm等)、クラス2はPDEに基づく限度値、クラス3は0.5%。まずオプション1で通るかを見る。定量はヘッドスペースGC(FID、6%シアノプロピルフェニル-94%ジメチルシリコーン、30 m)が標準だが、NMP・DMAc・スルホランなど7溶媒はヘッドスペースでは感度が出ず別法が必要

用語集

  • PDE(Permitted Daily Exposure):医薬品中に残留する溶媒の、1日当たりに摂取が許容される最大量(mg/day)。
  • オプション1:1日服用量を10 gと仮定して濃度限度値を一律に決める方法。成分をどの比率で組み合わせてもよい。
  • オプション2:実際の1日服用量に基づいてPDEから限度値を逆算する方法。
  • ヘッドスペース法:密閉容器内で試料を加熱し、平衡に達した気相を採取してGCへ導入する手法。
  • 乾燥減量(LOD):加熱により失われる質量を測る試験法〈2.41〉。何が減ったかを区別しない非特異的方法。
  • FID(水素炎イオン化検出器):有機化合物を水素炎中でイオン化して検出する、GCの汎用検出器。
  • ICH Q3C:残留溶媒に関するICHガイドライン。R9が最新(2024年1月24日 Step 4)。
  • Minor Revision Procedure:ICHにおける限定的な改訂手続き。R9はこの手続きで section 3.4 のみを改訂した。

出典

  • 厚生労働省「第十九改正日本薬局方」(令和8年4月10日厚生労働省告示第193号)一般試験法 2.46 残留溶媒 — https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001689414.pdf
  • ICH「IMPURITIES: GUIDELINE FOR RESIDUAL SOLVENTS Q3C(R9)」(Step 4: 24 January 2024) — https://database.ich.org/sites/default/files/ICH_Q3C(R9)_Guideline_MinorRevision_2024_2024_Approved.pdf
  • 厚生労働省「医薬品の残留溶媒ガイドラインの改正について」令和6年4月15日 医薬薬審発第415001号 — https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc8506&dataType=1&pageNo=1
  • 独立行政法人医薬品医療機器総合機構 審査マネジメント部「第十九改正日本薬局方(令和8年4月10日厚生労働省告示第193号)の概要」 — https://www.pmda.go.jp/files/000280169.pdf
  • 独立行政法人医薬品医療機器総合機構「2.46 残留溶媒」改正原案(令和3年8月13日付薬生薬審発0813第1号を踏まえた改正) — https://www.pmda.go.jp/files/000250783.pdf
  • 欧州医薬品庁(EMA)「ICH Q3C (R9) Residual solvents - Scientific guideline」 — https://www.ema.europa.eu/en/ich-q3c-r9-residual-solvents-scientific-guideline

制作メモ:本記事は、厚生労働省告示による日本薬局方原文、ICH公表のQ3C(R9)原文、厚生労働省通知、PMDA公表資料という一次情報のみを編集側が直接取得・照合して執筆しました。JP19本文と改正前の原案を突き合わせて「3. 分析方法」の差分を特定し、ICH Q3C(R9) section 3.4 の英文と対応づけて確認しています。条文の要点解説であり、実運用にあたっては告示原文をご確認ください。