分析法バリデーションが30年ぶりに変わった ― ICH Q2(R2)とQ14の国内適用を条文で読む【2026年版】
クロマトグラフィー

分析法バリデーションが30年ぶりに変わった ― ICH Q2(R2)とQ14の国内適用を条文で読む【2026年版】

分析法バリデーションの拠り所だった平成7年・平成9年の2通知(旧Q2A・旧Q2B)が統合され、 令和7年10月9日付けで「分析法バリデーションに関するガイドライン」として置き換わった。 同日、まったく新しい「分析法の開発に関するガイドライン」(ICH Q14)も発出されている。 本記事は、通知本文が列挙する7つの改正点を原文で示したうえで、「範囲」から「報告値範囲」への 用語の変化、真度と精度を組み合わせて評価してよくなったこと、そして頑健性とシステム適合性が Q2からQ14へ移動したという構造変化を整理する。さらにQ14のATP・エスタブリッシュトコンディションが 承認後の変更にどう効くのかまで、条文に即して扱う。

分析法バリデーションの実務は、長らく2本の通知の上に立っていました。

  • 旧Q2A通知:平成7年7月20日付け 薬審第755号「分析法バリデーションに関するテキスト(実施項目)について」
  • 旧Q2B通知:平成9年10月28日付け 医薬審第338号「分析法バリデーションに関するテキスト(実施方法)について」

「何を評価するか」と「どう評価するか」が別々の文書に分かれている――この構成のまま、およそ30年が経ちました。

それが、令和7年(2025年)10月9日付け 医薬薬審発1009第1号「分析法バリデーションに関するガイドラインについて」で1つの文書に統合され、章立てごと再編されました。同じ日に、医薬薬審発1009第2号として、まったく新しい「分析法の開発に関するガイドライン」(ICH Q14)も発出されています。

本記事は、この2つの通知と ICH 原文を突き合わせ、何が変わり、実務で何をすればよいのかを条文に即して整理します。

この記事の読み方:1〜2節は改正の全体像で、規制対応に関わる方はまずここだけでも押さえてください。3〜6節は Q2(R2) の中身で、現場の分析者向けに具体的な実施方法を扱います。7〜8節は Q14 で、承認後の変更まで見据える方向けです。9節は分析技術ごとの実務値です。専門用語は初出時に短く補足します。

1. 日付の整理 ― ICHでの採択と、国内適用の2段階

ICH採択から三極の適用までの時系列を示した図解
図解:2023年11月1日にICH Q2(R2)/Q14がStep 4採択、2024年3月に米国FDAが最終ガイダンス、2024年6月14日に欧州EMAが発効。日本は令和7年(2025年)10月9日の医薬薬審発1009第1号/第2号で適用され、欧米から約1年半遅れた。なお令和6年10月9日の同番号通知は別件なので年号の確認が必須。

まず日付を確定させます。ここは間違えやすいところです。

段階 文書 日付
ICH採択(Step 4) ICH Q2(R2) Validation of Analytical Procedures 2023年11月1日
ICH採択(Step 4) ICH Q14 Analytical Procedure Development 2023年11月1日
国内通知 分析法バリデーションに関するガイドライン(医薬薬審発1009第1号 令和7年10月9日
国内通知 分析法の開発に関するガイドライン(医薬薬審発1009第2号 令和7年10月9日

ICH 原文(英語版)はいずれも表紙に "Final Version, Adopted on 1 November 2023" と明記されています。ICHでの合意から国内通知まで約2年かかった計算です。

⚠️ 通知番号の落とし穴:「医薬薬審発1009第1号」という同じ番号の通知が、令和6年10月9日にも存在します。そちらは「医薬品の承認申請に際し留意すべき事項について」の一部改正であり、分析法バリデーションとはまったく無関係です。通知番号は「医薬薬審発+発出月日+第N号」という形式なので、年が違えば同じ番号が再び現れます。検索で通知を引くときは、必ず年号まで確認してください。

この構造は、JP19 クロマトグラフィー総論〈2.00〉残留溶媒分析とICH Q3C(R9)と同じです。ICHで合意 → 国内通知で実装という2段階を押さえておくと、改正の全体像を追いやすくなります。

日本は欧米より1年以上遅れて適用された

三極の適用時期を並べると、日本の位置がはっきりします。

地域 Q2(R2) Q14
EU(EMA) Step 5 Revision 2(EMA/CHMP/ICH/82072/2006)
発効 2024年6月14日(初回公開 2023年12月22日)
Step 5 Revision 1(EMA/CHMP/ICH/195040/2022)
発効 2024年6月14日(初回公開 2024年1月26日)
米国(FDA) 2024年3月 最終ガイダンス(Docket No. FDA-2022-D-1503、CDER) 最終ガイダンスとして公表
日本 令和7年(2025年)10月9日 通知 令和7年(2025年)10月9日 通知

EUと米国は2024年前半、日本は2025年10月1年半近い開きがあります

このズレは実務に影響します。グローバル開発を行っている場合、欧米向けの申請では既にQ2(R2)/Q14ベースで作業が進んでいる一方、国内向けは旧Q2A/Q2Bのままだった、という状態が2024〜2025年に生じていました。社内のSOPや文書ひな形が地域ごとに分岐していないか、この機会に確認する価値があります。

2. 通知が明記した7つの改正点

7つの改正点を3つの方向性に整理した図解
図解:中心は(1)旧Q2A・旧Q2Bの統合と再編。左は「Q14との役割分担」で、(2)ライフサイクルにおけるバリデーションの追加と(6)SST・頑健性の詳細のQ14への移動。右は「対象技術の拡張」で、(3)安定性指標特性と多変量分析法、(4)非線形レスポンスと多変量検量、(5)真度と精度の組み合わせ評価。下は(7)付属書1・2の追加。

国内通知の本文には、改正点が「記」として7項目、明示的に列挙されています。二次情報を介さず、そのまま読むのが最も確実です。

# 通知本文の記載(要約せず原文の趣旨のまま)
(1) 旧Q2A通知及び旧Q2B通知により示していた実施項目及び実施方法を一つの文書に統合し、章の構成を再編した
(2) 「2. 分析法バリデーションに係る一般的な考慮事項」に「2.2 分析法のライフサイクルにおけるバリデーション」を追加し、ICH Q14ガイドラインとの関係性を明確にした
(3) 2.4 安定性の指標となる特性(Stability-indicating properties)の実証」及び「2.5 多変量分析法についての留意点」を追加した
(4) 「3.2.2 レスポンス」に「3.2.2.2 非線形レスポンス」及び「3.2.2.3 多変量検量」を追加した
(5) 「3.3 真度及び精度」に「3.3.3 真度と精度を組み合わせて評価する手法」を追加した
(6) システム適合性試験及び頑健性に関する詳細な記述は、内容を改訂し、ICH Q14ガイドラインに移動した
(7) 6. 付属書1:バリデーション実験の選択」及び「7. 付属書2:分析技術ごとの事例」を追加した

(出典:令和7年10月9日付け 医薬薬審発1009第1号)

この7項目には方向性があります。

  • (2)(6)は「Q14との役割分担」。バリデーションだけを切り出すのをやめ、開発から運用までを1本のライフサイクルとして捉える構成に変わりました。
  • (3)(4)(5)は「対象技術の拡張」。従来のHPLC中心の想定から、非線形なレスポンスや多変量解析を使う分析法(近赤外分光やプロセス分析など)を正面から扱えるようにしています。
  • (7)は「使いやすさ」。何をバリデートすべきかの選択図と、分析技術ごとの実例が付きました。実務者にとって最も嬉しい追加です。

とくに (6)は構造上の大きな変化なので、6節で単独に扱います。

3. 「範囲」から「報告値範囲」へ

個別パラメータ評価から報告値範囲を軸にした総合評価への転換を示した図解
図解:「範囲」「直線性」を個別に潰していく従来の発想から、報告値範囲において特異性・真度・精度・検出限界/定量限界を同時に検討する発想へ。実務直結のルールとして、日常分析の繰り返し回数(例:n=2)をバリデーションの実験計画に反映する。

用語で最初に戸惑うのが、報告値範囲(reportable range)です。

従来の「範囲」「直線性」に代わる整理として、Q2(R2) は「報告値範囲」を軸に据えました。ガイドラインは、報告値範囲における特異性/選択性・真度・精度といった分析能パラメータを同時に検討し、総合的で信頼性の高い知識が得られるような実験計画を組むことができるとしています。

ポイントは、個別のパラメータを別々に潰していく発想から、「この範囲で報告値を出せることを示す」という発想への転換です。

そしてもう1つ、実務に直結する記述があります。

バリデーション評価の実験的な計画には、日常分析において報告値を得るときの繰り返し回数を反映すべきである。

つまり、日常のルーチンでn=2で報告しているなら、バリデーションもそれを反映した計画にするということです。バリデーションだけ厳重に繰り返して、日常はn=1、という運用は筋が通りません。ただし条文は、正当な理由があれば異なる繰り返し回数を適用したり、バリデーションで得られたデータに基づいて日常分析の繰り返し回数を調整したりすることも許容しています。

なお、バリデーションは実施計画書を事前に作成し、結果を報告書にまとめることが明記されています。既存の知識(開発時や過去の評価で得た知識)を流用する場合は、適切な根拠を示す必要があります。

4. 何をどこまでバリデートするか ― 表1の読み方

品質特性ごとに必要なバリデーション実験を示した表1の図解
図解:確認試験は特異性のみ。不純物(定量試験)と定量法・含量では特異性・範囲・真度・併行精度・室内再現精度をいずれも実施する。注記から読み取れる省略の根拠は2つ――室間再現精度のデータセットから算出できるなら室内再現精度の別途評価は不要、物理的化学的性質の測定では装置の適格性評価で代替できる場合がある。

Q2(R2) の表1 は、測定する品質特性ごとに、どのバリデーション実験が通常必要かを示したものです。実務では最も参照される表でしょう。

評価する分析能パラメータ 確認試験 不純物(定量試験) 不純物(限度試験) 定量法・含量/力価
特異性
範囲:レスポンス(検量モデル)
範囲:下限値 QL† DL
真度
精度:併行精度
精度:室内再現精度

+=通常実施される/-=通常実施されない/†=一部の複雑なケースではDLも評価することがある

(出典:ICH Q2(R2) 表1。DL=検出限界、QL=定量限界)

注記に実務上の要点があります。

  • (3)単一の分析法では特異性に欠ける場合には、妥当性を説明できない限り、他の関連する少なくとも1つの分析法によって補完すべきである。
  • (4)真度と精度を別々に評価する代わりに、組み合わせた手法を使用してもよい(5節)。
  • (5)室間再現精度を評価し、かつそのデータセットから室内再現精度を算出できる場合には、室内再現精度を別途評価する必要はない
  • (2)物理的化学的性質を測定する特定の分析法では、一部の分析能パラメータの評価を「分析技術固有の妥当性評価」で代替できる場合がある。

(5)は地味ですが効きます。複数施設で評価するなら、室内再現精度を別立てで組まなくてよいということです。(2)も同様で、たとえば粒子径測定のように装置の適格性評価で真度を担保できる技術では、従来型の添加回収試験を無理に当てはめる必要がありません。

5. 真度と精度を組み合わせて評価してよくなった

真度と精度を1つの実験計画から導く手法を従来法と対比した図解
図解:従来は真度と精度を別々の実験として組み、別々のデータセットを得ていた。Q2(R2) 3.3.3 は、濃度水準と繰り返しを織り込んだ1つの実験計画から両方を導く手法を明示的に認めた。条件は、実施計画書でどのデータからどのパラメータを導くのか、統計的な扱いと設計を事前に説明すること。

改正点(5)で追加された「3.3.3 真度と精度を組み合わせて評価する手法」は、実験規模に直接効く変更です。

従来は、真度(添加回収など)と精度(併行・室内再現)を別々の実験として組むのが通例でした。Q2(R2) はこれを、1つの実験計画から両方を評価する手法を明示的に認めています。表1の注記(4)が「真度と精度を別々に評価する代わりに、組み合わせた手法を使用してもよい」と述べているとおりです。

実務的な意味は明快です。 濃度水準と繰り返しを織り込んだ計画を1本組めば、そこから真度と精度の両方を導ける。実験数と分析時間を減らせる可能性があるということです。

ただし、組み合わせた手法を採るなら、その設計と統計的な扱いを説明できなければなりません。実施計画書の段階で、どのデータからどのパラメータを導くのかを明確にしておく必要があります。

6. 頑健性とシステム適合性が Q14 に移った ― これが最大の構造変化

頑健性とSSTが開発段階(Q14)へ前倒しされたことを示す図解
図解:ステップ1の開発段階(ICH Q14)で、分析法操作パラメータを変動させた頑健性の評価と、日常点検としてのSSTの設定を行う。ステップ2のバリデーション段階(ICH Q2(R2))で真度・精度・特異性を評価する。「バリデーション実施時に頑健性も一緒に見る」という順序は、この枠組みでは逆になる。

改正点(6)は、読み飛ばすと実務で足をすくわれます。

システム適合性試験及び頑健性に関する詳細な記述は、内容を改訂し、ICH Q14ガイドラインに移動した。

頑健性(robustness)とシステム適合性試験(SST)が、Q2 から Q14 へ引っ越したのです。

Q2(R2) 本文は、この位置づけを次のように述べています。

システム適合性試験(SST)は、分析法に不可欠な要素であり、通常、開発段階において日常的な性能点検として設定される。頑健性は、通常、分析法バリデーション評価を実施する前に、分析法の開発の一環として評価される(ICH Q14)。

つまり、頑健性は「バリデーションでやること」ではなく「開発でやっておくこと」になりました。付属書2の各表でも、頑健性の欄には「ICH Q14に従った分析法の開発の一環として実施」という但し書きが付いています。

これは責任分界の変更です。 「バリデーションのときに頑健性も見ればいい」という進め方は、Q2(R2)/Q14 の枠組みでは順序が逆になります。開発段階で分析法操作パラメータを故意に変動させて頑健性を確認し、そこで得た知識をもとにバリデーション戦略を組む――この順番が前提になりました。

HPLCトラブルシューティングで扱ったような「どのパラメータがどれだけ効くか」の理解は、まさにここで要求される知識です。

7. ICH Q14 とは何か ― 最小限の手法と、より進んだ手法

最小限の手法とより進んだ手法、およびATPの位置づけを示した図解
図解:最小限の手法は必須要件で、品質特性の特定・分析技術と装置の選択・報告値範囲におけるパラメータと頑健性の評価・分析法管理戦略を含む文書化の4つ。より進んだ手法はこれに、リスクアセスメント、多変量実験とモデリング、PAR/MODRの設定を加える。共通の土台がATP(提出は任意)で、分析技術を決める「前」に性能基準と使用目的を定める。

Q14 はまったく新しいガイドラインで、分析法の開発を扱います。

最小限の手法(minimal approach)

Q14 は、分析法の開発に少なくとも次の要素を含める必要があるとしています。

  • 評価する必要のある製品品質特性の特定
  • 適切な分析技術及び測定装置・器具の選択
  • 報告値範囲(検量モデル、範囲の下限値・上限値を含む)における特異性・真度・精度等の分析能パラメータ及び頑健性を評価するための研究
  • 分析法管理戦略を含む分析法の文書化

この4つは最低ラインです。 「うちは従来どおりでいく」という場合でも、ここは満たす必要があります。

より進んだ手法(enhanced approach)

これに加えて、必要に応じて次の要素が入ります。

  • 分析法の性能に影響しうる分析法操作パラメータを特定するためのリスクアセスメントと既存知識の評価
  • 特定したパラメータの範囲や相互作用を検討するための単変量/多変量の実験やモデリング
  • PAR(立証された許容範囲)MODR(分析法デザインスペース)を含む、分析法管理戦略の設定

ATP(目標分析プロファイル)

より進んだ手法の中核が ATP(Analytical Target Profile、目標分析プロファイル)です。条文は、ATP を「分析法の使用目的、測定される製品品質特性の適切な詳細、関連する分析能パラメータ及びその性能基準」から構成されると定義しています。

重要なのは、ATP は分析技術を決める前に置かれるという点です。「この測定に求められる性能はこれだ」を先に固めてから、それを満たす分析技術を選ぶ。複数の分析技術が性能基準を満たす場合もあると条文は明記しています。

そして、ATP の正式な文書化及び提出は任意です。ただし、選択した開発手法に関わらず、規制当局とのコミュニケーションが容易になる可能性があるとされています。

8. 承認後の変更 ― より進んだ手法を採る動機はここにある

開発手法の選択がECの数と薬事手続きに与える影響を示した図解
図解:最小限の手法では分析法操作パラメータの固定値がECになり数が多くなるため、変更のたびに薬事手続きが要る。より進んだ手法ではECが削減され性能重視になり、ECでないパラメータの変更には薬事手続きが必須ではない。PAR/MODRとして承認された範囲内なら自社のPQS内で変更を完了できる。ただし進んだ手法を用いても、申請時に提出する記載の詳細さを減らしてよいわけではない。

「より進んだ手法は手間がかかる。なぜやるのか」――答えは承認後の変更マネジメントにあります。

鍵になるのが EC(エスタブリッシュトコンディション、Established Conditions) です。ICH Q12 の枠組みに沿って、申請者は分析法の EC を提案できます。EC は次の要素から構成されうる、と条文は述べています。

  • 分析能パラメータ及びその許容基準(例えば、ATPに含められる)
  • 分析法の測定原理(物理化学的原理または特定の分析技術)
  • SST及びサンプル適合性評価の許容基準
  • 少なくとも1つの分析法操作パラメータにおけるセットポイントや範囲

ここで、開発手法によって EC の姿が変わります

最小限の手法により分析法を開発した場合、分析法操作パラメータの固定値及びセットポイントがECに設定され、ECの数が多くなる可能性がある。

より進んだ手法を用いた場合……ECの数は削減され、分析法の性能(例:分析法操作パラメータの許容範囲、分析能パラメータ及びその許容基準)に重点を置いたものとなりうる。

EC が多いほど、変更のたびに薬事手続きが必要になります。 逆に言えば――

EC ではない分析法操作パラメータを変更する場合、薬事手続きは必須ではない。

さらに、適切な根拠がありバリデートされている場合、企業のPQS(医薬品品質システム)に基づき、PAR または MODR として承認された範囲内における変更を行うことができるとされています。範囲外に出るとき、あるいは範囲を広げるときに初めて薬事手続きが要る、という構造です。

これが、より進んだ手法に投資する経済的な理由です。 開発時に頑健性を作り込んで許容範囲を承認に含めておけば、その後のカラムロット変更や条件微調整を、いちいち手続きなしで回せる可能性が出てきます。

ただし条文は、釘も刺しています。

より進んだ手法を用いることにより、規制当局に提出される分析法に関する記載が減ることにつながるべきではない。

CTDモジュール3 には、EC を特定するために使用した手法に関わらず、分析法を明確に理解できる適切な詳細さでの記載が求められます。「ECを絞る」=「書く量を減らす」ではありません。

なお、ATP は PACMP(承認後変更管理実施計画書)の基礎にもなり、事前に規定した要件を満たせば、分析技術の変更をより低い変更カテゴリーの手続きで行える場合があるとされています。

9. 付属書2 ― 分析技術ごとの実務値

改正点(7)で追加された付属書2「分析技術ごとの事例」には、技術別の具体的な実施方法が表形式で載っています。実務でそのまま使える数値を拾います。

定量的な分離技術(HPLC、GC、CE)

分析能パラメータ 実施方法
併行精度 報告値範囲を含む 3濃度について、分析法の全操作を各濃度3回ずつ繰り返す。又は、試験濃度の100%に相当する濃度で全操作を6回繰り返す
室内再現精度 異なる試験日、環境条件、試験者、装置等について検討する
直線性 期待される稼働範囲の全域にわたって、少なくとも5水準の希釈濃度の分析対象物を用いて確認する
下限値(純度試験のみ) 選択した実施方法により QL 及び DL を求める(例:シグナル対ノイズの決定)
真度(定量法) 純度既知の分析対象物質(標準物質)と比較、又は原理の異なる分析法(Orthogonal procedure)と比較
真度(不純物・関連物質) 不純物の添加試験、又は原理の異なる分析法による不純物プロファイルと比較

頑健性で振るべきパラメータも具体的に例示されています(Q14の開発段階で実施)。

  • 試料調製条件:抽出容量、抽出時間、温度、希釈
  • 分離条件カラム/キャピラリーのロット、移動相/緩衝液の組成及びpH、カラム温度、流量測定波長
  • 試料及び標準物質の安定性

相対応答係数 ― 0.8〜1.2 が分岐点

見落としやすい規定があります。

相対応答係数が0.8〜1.2の範囲を超える場合には、感度係数を用いて補正すべきである。

分析対象物が標準物質と異なるレスポンス(たとえば異なる紫外可視吸光度)を示す場合、適切なレスポンスの比から相対応答係数を算出します。この評価はバリデーション又は開発段階のどちらで実施してもよいが、最終化された分析法の条件を用い、適切に文書化されていなければなりません。

そして実務的に効く例外があります。

製品の不純物/分解生成物の量が過大評価されている場合には、感度係数を用いた補正を行わないことも許容される。

安全側に振れているなら補正しなくてよい、ということです。

元素不純物(ICP-OES / ICP-MS)

元素不純物とICP-MSで扱った試験法にも、付属書2に専用の表があります。特異性/選択性については、マトリックスへ元素を添加して妨害が十分に少ないことを実証するか、特定の同位体に対する技術の特異性など、分析技術/既存の知識に基づいて妥当性を示すことが認められています。

10. 分析者の視点 ― 明日から何をすべきか

まず、自分の分析法がどの通知に基づいているか確認する。 旧Q2A(薬審第755号)・旧Q2B(医薬審第338号)を引用したSOPやバリデーション実施計画書のひな形は、参照先が置き換わりました。文書体系の更新が要ります。

頑健性の位置づけを直す。 バリデーション項目として頑健性を組んでいるなら、開発段階の作業として前倒しするのが新しい枠組みです。すでにバリデート済みの分析法をいま作り直す必要はありませんが、次に開発する分析法から順序を変えるべきです。

表1の注記を根拠に、実験を減らせないか検討する。 室間再現精度から室内再現精度を算出できるなら別途評価は不要ですし、真度と精度は組み合わせて評価できます。「従来どおり全部やる」は、もはや唯一の正解ではありません。

ATP を書いてみる。 提出は任意ですが、「この測定に求める性能は何か」を言語化する作業そのものに価値があります。分析技術を選ぶ前にこれを固めておくと、後の判断がぶれません。

よくある落とし穴を挙げます。

  • 通知番号だけで検索して別の通知を掴む。 1節のとおり、令和6年10月9日にも医薬薬審発1009第1号が存在します。年号まで確認してください。
  • 「Q14は任意だから関係ない」と考える。 Q14 には最小限の手法として満たすべき4要素が定義されており、ここは選択制ではありません。またSSTと頑健性の詳細記述はQ14側にあるので、Q2(R2)だけを読んでも実務は完結しません
  • より進んだ手法=提出書類が減る、と誤解する。 条文は明確に否定しています。減るのは変更時の手続きであって、申請時の記載ではありません。
  • 相対応答係数を確認していない。 0.8〜1.2 を外れているのに補正していないと、不純物量を取り違えます。
  • バリデーションの繰り返し回数と日常分析の繰り返し回数が食い違っている。 条文は「日常分析において報告値を得るときの繰り返し回数を反映すべき」と述べています。

まとめ

改正への対応として明日から取るべき4つのアクションを示した図解
図解:①旧Q2A・旧Q2Bを参照しているSOPや計画書のひな形を令和7年10月9日 医薬薬審発1009第1号/第2号に置き換える。②次回の分析法開発から、頑健性をバリデーション項目ではなくQ14に沿った開発段階の一環として先に評価する。③室間再現精度からの算出や真度・精度の統合評価を活用し「従来どおり別々に全部やる」から脱却する。④技術選択前にATPを書き出し、より進んだ手法の採用を検討する。
  • 旧Q2A(平成7年7月20日 薬審第755号)と旧Q2B(平成9年10月28日 医薬審第338号)は統合された。 ICH Q2(R2) と Q14 はいずれも 2023年11月1日にStep 4採択、国内は 令和7年10月9日 医薬薬審発1009第1号/第2号で適用。同じ番号の通知が令和6年10月9日にも存在するので年号の確認が必須。
  • 改正点は通知本文に7項目として明記されている。 統合と再編、ライフサイクル観点の追加、安定性指標特性と多変量分析法、非線形レスポンスと多変量検量、真度と精度の組み合わせ評価、SSTと頑健性のQ14への移動、付属書1・2の追加。
  • 最大の構造変化は、頑健性とSSTがQ2からQ14へ移ったこと。 頑健性はバリデーションではなく開発でやる作業になりました。付属書2の各表にも「ICH Q14に従った分析法の開発の一環として実施」と明記されています。
  • 実験は減らせる余地がある。 真度と精度は組み合わせ可、室間再現精度から算出できるなら室内再現精度は別途不要、物理化学的測定では分析技術固有の妥当性評価で代替可。HPLC/GC/CEでは併行精度は3濃度×3回または100%濃度で6回直線性は少なくとも5水準相対応答係数は0.8〜1.2が分岐点。
  • Q14に投資する動機は承認後の変更にある。 より進んだ手法ではECの数を減らし性能重視にできるため、ECでないパラメータの変更には薬事手続きが不要。PAR/MODRの承認範囲内ならPQSで対応可。ただし「申請時の記載を減らしてよい」という意味ではないと条文が明示しています。

用語集

  • ICH Q2(R2):分析法バリデーションに関するICHガイドライン。2023年11月1日にStep 4採択。旧Q2A(実施項目)とQ2B(実施方法)を統合した改訂版。
  • ICH Q14:分析法の開発に関するICHガイドライン。2023年11月1日にStep 4採択の新規ガイドライン。
  • 報告値範囲(reportable range):日常分析で報告値を出すことが保証される範囲。Q2(R2)で軸に据えられた概念。
  • ATP(目標分析プロファイル):分析法の使用目的、測定する品質特性、関連する分析能パラメータとその性能基準から構成される文書。提出は任意。
  • EC(エスタブリッシュトコンディション):ICH Q12の概念で、変更時に薬事手続きを要する事項として承認に含まれる要素。
  • PAR(立証された許容範囲)/MODR(分析法デザインスペース):分析法操作パラメータの許容範囲。承認範囲内であればPQSに基づく変更が可能。
  • PACMP(承認後変更管理実施計画書):将来の変更内容と評価方法を事前に規定し、承認を得ておく仕組み。
  • 最小限の手法/より進んだ手法:Q14が示す2つの開発アプローチ。前者は必須の4要素、後者はリスクアセスメントやモデリングを加えたもの。
  • SST(システム適合性試験):日常分析でシステムの性能を点検する試験。Q2(R2)改訂で詳細記述はQ14へ移動した。
  • 頑健性(robustness):分析法操作パラメータを意図的に変動させたときの性能の安定性。Q14の開発段階で評価する。
  • 相対応答係数:標準物質と分析対象物のレスポンスの比。0.8〜1.2を外れる場合は感度係数で補正する。
  • Orthogonal procedure(原理の異なる分析法):測定原理が異なる別法。特異性や真度の確認に用いる。

出典

  • ICH「VALIDATION OF ANALYTICAL PROCEDURES Q2(R2)」Final Version, Adopted on 1 November 2023 — https://database.ich.org/sites/default/files/ICH_Q2%28R2%29_Guideline_2023_1130.pdf
  • ICH「ANALYTICAL PROCEDURE DEVELOPMENT Q14」Final Version, Adopted on 1 November 2023 — https://database.ich.org/sites/default/files/ICH_Q14_Guideline_2023_1116.pdf
  • 厚生労働省医薬局医薬品審査管理課長通知「分析法バリデーションに関するガイドラインについて」令和7年10月9日 医薬薬審発1009第1号 — https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc9358&dataType=1&pageNo=1
  • 厚生労働省医薬局医薬品審査管理課長通知「分析法の開発に関するガイドラインについて」令和7年10月9日 医薬薬審発1009第2号 — https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc9359&dataType=1&pageNo=1
  • 同通知(PDF、埼玉県掲載分) — https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/19123/071009-1.pdf
  • 同通知第2号(PDF、神奈川県掲載分) — https://www.pref.kanagawa.jp/documents/120002/071009yakushin2gou.pdf
  • 欧州医薬品庁(EMA)「ICH Q2(R2) Validation of analytical procedures - Scientific guideline」Step 5 Revision 2、EMA/CHMP/ICH/82072/2006、Legal effective date 14/06/2024 — https://www.ema.europa.eu/en/ich-q2r2-validation-analytical-procedures-scientific-guideline
  • 欧州医薬品庁(EMA)「ICH Q14 Analytical procedure development - Scientific guideline」Step 5 Revision 1、EMA/CHMP/ICH/195040/2022、effective from 14/06/2024 — https://www.ema.europa.eu/en/ich-q14-analytical-procedure-development-scientific-guideline
  • 米国食品医薬品局(FDA)「Q2(R2) Validation of Analytical Procedures」March 2024, Final guidance(Docket No. FDA-2022-D-1503, CDER) — https://www.fda.gov/regulatory-information/search-fda-guidance-documents/q2r2-validation-analytical-procedures

制作メモ:本記事は、ICHが公表する Q2(R2)・Q14 の原文(英語版PDF)と、厚生労働省医薬局医薬品審査管理課長通知の原文PDF(別添のガイドライン本文を含む)を編集側が直接取得し、条文を突き合わせて執筆しました。改正点は通知本文の「記」に列挙された7項目をそのまま用いています。なお執筆過程で、検索結果が「令和6年10月9日 医薬薬審発1009第1号」という別内容の通知を同一視して提示する事象を確認したため、日付は通知PDFの表紙で個別に確認しています。条文の要点解説であり、実運用にあたっては通知原文をご確認ください。